はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
坂下は借り物が書かれた紙を、私に手渡す。



「私と一緒に、来ていただけますか?」



『書道部の部員』なら、他にもいる。



チームのためにも、朱火組の先生がゴールするまでは、ここから動くわけにいかない。



私は、首を横に振った。



だけど坂下は、諦めてくれない。



私の耳元に口を近づけると



「あなたなら、私のお願いを聞いてくださるでしょう?」



私の大好きな優しい声で囁く。



自分のチームに部員がいなくても、私なら言うことを聞く。



そう考えて、私のもとに来たの…?



坂下を想う私の心が、悲鳴を上げる。



だけど、私の頬を撫でる温かい手と坂下から漂う香りに、私は次第に何も考えられなくなっていく。



「お願いします、ワカ。」



駄目押しの一言を、私の耳の中へねじ込む。



坂下の唇が、耳朶を掠める。



私のこと、“ワカ”って呼んでくれた!



それが純粋に嬉しくて、無意識に頷いた。



坂下は意識してないのだろうけど、坂下の色仕掛けに私は殺られた。



坂下は目の前で屈むと、私の腰に腕を回し…。



もう一方の手を、腿に這わせる。



私を肩に担ぐためにした行為に、身体がゾクゾクした。



私のオンナノコなとこが、過剰に反応する。



所謂、“感じちゃった”ってやつで…。



坂下にバレるんじゃないかっていう恥ずかしさと、担がれて逆さまになってるせいで、頭がクラクラする。



気がついたら、1位でゴールテープを切っていた。



「一緒にゴールしてくれて、ありがとう。」



そう言って、坂下が笑顔を見せるから…。



チームのみんなに怒られるとか、



私の気持ちを利用したとか、



そんなのどうでも良くなって…。



ここ最近で一番の笑顔を、坂下に向けた。










< 212 / 286 >

この作品をシェア

pagetop