はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
通されたのは、翠子の部屋。



部屋といっても、寝室に勉強部屋に応接間…といったものが、翠子専用にある。



私は応接間のソファーに腰かけ、翠子が制服から着替えてくるのを待った。



さっきは翠子に会った途端に泣き出したけど、翠子が車の中で頭を撫でてくれたから、泣き止むことができた。



だからこうして1人にされると、坂下のことが思い出されて…。



また、涙が出そうだ。



そんな気持ちの中、翠子が部屋に現れると、それを見計らったようにドアがノックされた。



翠子付きの使用人が、お茶とお菓子を運ぶ。



「苺のロールケーキでございます。

桐生様のお口に、合うとよろしいのですが…。」



さっきまでの無表情が嘘みたいに、にこやかな顔で給仕をする。



ん?そういえば、苗字名乗った覚え無いんだけど…。



翠子が、使用人に非難の目を向けた。



あ、さっき家の場所聞いてたのって…私の身元調査のためだったんだ。



給仕が終わると、使用人は部屋を出た。



ドアが閉められた途端



「若菜さん、ごめんなさいね。

勝手に調べるなんて…、お気を悪くされたでしょう?」



翠子が頭を下げた。



「良いよ、とりあえず及第点だったみたいだし。

重荷でしかない桐生の名前も、たまには役に立つんだね。」



そう言ったところで、翠子の申し訳なさそうな表情は変わらなかった。



「それより、ケーキ食べちゃお。

すごく美味しそう!」



食欲なんて、全く無いんだけど…。



「ふふっ、そうね。」



翠子に笑顔が戻って、ホッとした。









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