だから何ですか?




本気で殴ってやりたいと浮き気味の腰をそれでもなんとか抑え込んでソファに身を置き、視線で殺す様に睨みつけているというのに相手ときたらクスクスと笑うもんだから逆撫でられて腹が立つ。



「フフッ、『殴る』?何で?」


「お前の全部!在り方!人を転がして遊んでそんなに楽しいか!?」


「楽しい楽しくないで言えば楽しい」


「よし、本当に殴らせろ」


「だから、何で俺が殴られなきゃなのかねぇ。立場的、状況的には浮気男は和の方なのに」


「だから、それだよ!」



抑制の限界とばかり、勢い任せに立ち上がった体が前のめりになり、手を伸ばし掴んだのは海音の胸座だ。


さすがに殴るまではいかず、それでも憤りを出来る限り伝える様に掴んで引き寄せ睨みこむ。


そんな俺の行動に微塵も動じず口に咥えた煙草から煙を漂わせている男の口元は弧を描いて。


表情が語るのはこんな状況でもおちょくるような『何の事?』というものだろう。



「亜豆とお前、そういう関係じゃねぇだろ?」


「・・・『そういう』って?」


「俺が嫉妬して修羅場ったりするような恋愛関係じゃねぇだろっつてんだ!」


「フッ・・・どういう答え出したらもっと面白い展開になる?」


「っ・・てめ、」



まったく悪びれず、もっと言えば至極愉快だと言いたげに歪んだ笑みに、掴んでいた胸座を更に雑に引き寄せた瞬間。


ワンッと一声。


次の瞬間には俺のズボンの裾を噛んで引っ張ってきた大型犬には純粋に怯んで力が緩んだ。





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