だから何ですか?
俺の声かけにも答えない亜豆の今の頭にある事は何か一つらしい。
水を汲んで飲むのかと思えばそのカップを手に再び歩きだして社の中でも立派と言える部屋の扉の前に。
ああ、もうこれ・・・成り行き任せか。
そんな諦めを感じたのは何の躊躇いもなく亜豆が社長室の扉をノックしたタイミングだ。
社長室。
つまりは海音のいる部屋。
ノックの音に『どうぞ』と特別抑揚のない声が返されて、その返答を聞き取ると『失礼します』といつもの流れなのであろう感じに扉を開いて中に入る亜豆。
それにそろりそろり後について中に入れば、亜豆と俺の姿に『アレ?』なんて反応しパソコンから意識をこちらに向け笑ってくる姿。
「2人揃ってどうした?一応勤務時間帯なのに堂々と社長室来たか」
あははっと笑ってこの状況を楽しんでいる海音だけども言っている事はもっともだ。
さすがに俺だって一般常識やモラルはあって、だからこそこの非常識な社長室訪問には強気に出れず未だ亜豆より後ろに身を置いているというのに。
このお嬢さん・・・強者だ。
いや、それこそ馴染みの関係だからこそ出来るこの行動なのか?
なんて、まったく臆することなくツカツカと海音のいるデスクに近づいて行く亜豆を最早引き止める意思もなく見守っていれば。