だから何ですか?


「いま_」

「悪い、寝落ちしてたぁ。井田ぁ、すぐ行くから打ち合わせ室で用意しててくれよ」


「あはは、しっかりしてくれよリーダー。眠気覚ましはコーヒーでいいか~?」


「ブラックの熱々で~」


「了解~」



何事もない。


そんな当たり前のいつもの応答を返しながら焦っている亜豆を見下ろしクツリと笑って見せる。


悔しそうに目を細めるのに、まだやめていない愛撫に堪えて悶え、必死に口を押える亜豆の頬に唇を這わせて涙を取り除いたタイミング。



「伊万里さん?大丈夫ですか?」



どうやら井田と一緒にはいかなかったらしい小田がいつまでも動きを見せない俺を案じ声を響かせその気配が近づいてくる。


発せられた声の聞こえ方で大方の距離くらいは把握できる。


まだ距離はある。


もう距離がない。


どっちつかずな距離であるというのが一番的確な答えだろうか。



「んー、へーき、」



そんな、なんてことない返事を口にした唇は亜豆の唇に触れて啄んで。


さすがにマズイと思ってか必死に俺を退かそうと胸を押し返す亜豆を尚も抑え込んで口づける。


そんな間にも近づく気配と、



「もしかして、他の仕事に没頭してます?」



クスリと仕方ないとばかりに笑いが混じった声が確実にこちらに近づいているのはよく分かる。




< 321 / 421 >

この作品をシェア

pagetop