湖にうつる月~初めての恋はあなたと
その日は意外と早くやってきた。

澤井さんとのデートの日。せっかくワンピースを新調したというのに外はあいにくの雨だった。

こんな天気にデートだなんて、きっと私の運のなさが招いているんだろう。

待ち合わせの場所に着くまでに、すっかりスカートの裾は不様に雨に濡れていた。

ハンカチで濡れたバッグを拭いていると、私の前に一台の車が停まった。

窓が開いて、澤井さんの顔が見えた。

「さ、早く乗って」

「は、はい」

ハンカチをバッグになおすと、私は傘を閉じて車に乗り込んだ。

澤井さんの車はあの日夜でよく見えなかったけれど、真っ赤でシャープな形をしていた。

いかにも高そうな革張りの椅子に、見晴らしの良い全景が広がるフロントガラス。

きっと高級車に違いない。

澤井ホールディングスの御曹司なんだもんね。

今更ながら、そんな相手の助手席に乗っていることに気持ちが委縮した。

「随分雨に濡れちゃったね、どこかで乾かす?」

「どこかで乾かすって、どこで乾かすんでしょうか。きっと食事している間に乾くと思いますが」

澤井さんは私の返事にくすっと笑う。

「俺の家、すぐ近くなんだけど。うちで乾かす?」

「へ?!」

何を言ってるんだろう、この人は!!

乾かすってことは私は裸で部屋で待ってろってこと?

やっぱり易々とこんなイケメンを信じちゃいけなかった。

「私、帰ります。下ろして下さい」

「どうして?」

澤井さんはケロッとした顔で尋ねる。

「だって、澤井さんの部屋で裸でいろなんて、犯罪でしょう?そんなに知りもしない男性のうちに行くなんて父に叱られます」

「誰が裸でいろなんて言った?」

澤井さんは口元を緩めながら、ブレーキを踏む様子もなく車を走らせる。
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