湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「うちの乾燥機使えばすぐスカートはきれいに乾くし、その間君は俺のシャツでもTシャツでも何でも着ておけばいい」

そして澤井さんは、笑顔で続けた。

「言ったろう?男と女の関係は一切ないから安心しろって。俺は今女性には全く興味がないってさ」

なぜだかそう言い放った澤井さんの笑顔に胸がちくりと痛んだ。

澤井さんに対する境遇に痛んだのか、自分の気持ちが痛んだのかはよくわからない。

だけど、澤井さんの家に行ってもきっと私が心配するようなことは何一つないんだということは確かな気がした。

私は渋々「わかりました」と頷く。

「そのスカートが乾いたら、おいしいもの食べに行こう。俺の家の最上階に有名なフレンチレストランがあるんだ」

「澤井さんの家の最上階にレストランって、普通のマンションでは考えられないんですけど」

「俺の家はマンションじゃなくてホテルだから」

「ホテル?」

さっきから何度驚かされてるんだろう。

この人は普通の会話が出来ないんだろうか。

いずれにしてもホテル住まいってどういうこと?

「俺、これまで転勤ばっかでさ。こないだもニューヨークから帰ってきたばっかりで。多分また近いうちに転勤になるからいちいち家を探すのも面倒でね」

それでホテル住まいなんだ。っていうか、そういう話も周囲ではなかなか珍しいことで。

澤井さんとしゃべっていると普通がなんなのかわからなくなってきそうだ。

しばらく車を走らせた先に、美しい姿の大きなホテルが目の前に現れた。

このホテルって。

「まさか、この都内でも最高級ホテルのヴァリーランドンホテルじゃないでしょうね?」

ホテルを車内から見上げながら呟く。

このホテルはこないだテレビで紹介されていて、とにかく最高級のもてなしと部屋でセレブでないと泊まれないくらい一泊の部屋代が高いと言っていた。

シングルでも軽く5万円以上はするって。

そこに1人で何日も過ごしてるって、どういう感覚なのかしら。



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