湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「高級ホテルだけど、俺の親父の弟がここのオーナーでさ。普通の人よりはかなり安く泊まらせてもらってる」

「お父様の弟さんがオーナー?」

座っているけれど腰が抜けて椅子からずり落ちそうになる。こんな世界的にも有名な高級ホテルのオーナーだなんて。

車は地下の駐車場に緩やかなカーブを描きながら入っていった。

キラキラ光るロビーからキラキラ光るエレベーターに乗り、澤井さんの『家』だという部屋に入った。

シングルではなくって、スィートルームじゃない??

思わず、澤井さんの家だということも忘れて、「すごい!」と感動しながら部屋中を見て回った。

1人ではもったいないくらいのダブルベッドが中央におかれ、美しい高級調度品が部屋の雰囲気を更に品よく彩っている。

リビングに面した全面窓は、東京湾が一望できた。

窓にべったり顔を付けて見入っていた私の横に澤井さんが並び、白いシャツを手渡した。

「はい、これに着がえて。すぐにフロントにクリーニング手配するから」

「クリーニングなんて、そんな。少し部屋に干したらすぐ乾きます」

「ホテルのクリーニングだからきれいに一瞬で乾燥させてくれるよ。俺の家には干す場所もないしね」

部屋を見渡すと、確かに洗濯物を干すようなスペースは見当たらない。

きっと洗濯は毎日クリーニング手配してるんだ。

「贅沢ですね」

白いシャツを受け取りながら、思わずポツリと言った。

「贅沢?そうかな。でも、ホテル住まいなら普通じゃない?」

「ホテル住まい自体が贅沢なんです。一般人はそんなことできないから。しかもこんな素敵な部屋で1人でなんて」

「そう、か。こういう生活は贅沢なんだな」

澤井さんは前髪を掻き上げながら、少し寂しそうに微笑んだ。

「でも、今日は澤井さんのお言葉に甘えてクリーニングお願いします。向こうで着がえてきます」

私はシャツを手にして逃げるように洗面所へ急いだ。

贅沢だなんてムキ付けて言っちゃって、少し失礼だったかな。

スカートを脱ぎ、澤井さんから借りたシャツを羽織りボタンを閉めた。

私は小柄なせいか、長身の澤井さんのシャツが膝上のワンピースに変身する。

このシャツもクリーニングで仕上げたからか、糊が利いていて着心地はとてもよかった。
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