湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「何か飲む?」

キッチンから彼の声が聞こえる。

「澤井さんは?」

まだドキドキの震えを感じながら答えた。

「俺はカフェオレ飲むけど」

「じゃ、私も同じものをお願いします」

「了解」

澤井さんが私のためにカフェオレ作ってくれるんだ。

こんな高級ホテルのスイートルームで・・・・・・それこそ贅沢の極みだわ。

さすがに、このソファーでただカフェオレが運ばれてくるのを待つだけっていうのは、あまりに女子として情けないよね。

まだ緊張で固くなった体をゆっくりとソファーから起こして、キッチンへ向かうことにした。

キッチンに向かう途中にワイングラスが並べられたサイドボードがあり、その上に一枚の写真が置かれているのを見つける。

何気なくその写真に目をやると、澤井さんとその横に見知らぬ女性が笑っていた。

これ。

元彼女の写真なの?最近別れたっていう?

急に胸の奥がきゅーっと締め付けられるように痛んだ。

もう女性には興味が無いって言ってたけど、まだ彼女には未練が残ってるのかしら。

私の知らない澤井さんとその彼女の笑顔が私の胸に鋭く突き刺さったままキッチンを覗いた。

コーヒーの香ばしい香りが鼻を通り抜ける。

「いい香り」

「だろう?」

コーヒーをカップに注ぎながら、私の方に視線を向ける澤井さんの穏やかな表情にさっきの写真の表情が重なった。

澤井さんはあくまで私が男性に慣れるための仮の彼氏役を引き受けてくれてるだけ。

それはわかってるけど。

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