湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「謝る必要なんてない。そう言ってもらえて嬉しいよ」

例えそれが社交辞令だったとしても、彼の私に向けられた言葉が恥ずかしすぎて顔が上げられない。

だけど、こんな私を払拭するために今澤井さんはそばにいてくれてるんだよね。

ぐっと手を握り締めて顔を上げ、ずっと聞きたかったことを尋ねようとを決意した。

「澤井さんは、出張も多くて忙しいし、今は女性にも興味がないのにどうしてこんなに私に親切にしてくれるんですか?」

カップを取ろうとした澤井さんの手が止まり私に視線を向ける。

そして僅かに口元を緩めながらソファーに深くもたれた。

その後の彼の言葉に、数%の期待がなかったいえば嘘になる。

「正月早々ついてない君がどういうその後を送るのか見届けてみたいと思ったから」

思わず眉間に皺を寄せて彼に顔を向けた。

そんな私を見て、澤井さんはぷっと吹き出す。

「冗談だよ」

そう言うと、私の頭を自分の握りこぼしで軽くコツンとした。

「本当は、君みたいにウブで素直な女性とは付き合ったことがないから興味があった。最終的に君が男を知った時どんな風に変わっていくのか、そしてどんな奴を最終的に選ぶのか見てみたいと思ったんだ」

「それは興味本位ってことですか」

「嫌いな相手には興味は持たない」

・・・・・・ドクン。

私を試すような目でじっと見つめる。

「私・・・・・・」

なんとか言葉を振り絞る。

「澤井さんの考えてることがよくわかりません」

「わからない?」

彼の私の奥底まで突き通すような目に思わず口をつぐんだ。
澤井さんにはどうしてか自分の気持ちがポロポロこぼれてしまう。

「いいよ、俺は大丈夫だから、遠慮せず言って」

そんな私の気持ちまで見えているんだろうか。意を決して口を開いた。

「私が最終的に誰を選ぶのか見てみたいって・・・・・・見て、知って澤井さんには一体何が残るんですか?」

澤井さんのさっきまでの試すような表情は消えていた。

「澤井さんはきっと今まで女性には不自由していなかったと思うし、恋愛経験も豊富かもしれないけれど、ちっとも女性の気持ちがわかってません。優しいようですごく相手を傷付けてる。・・・・・・私も」

気持ちを落ち着かせる為にゆっくりと深呼吸した。

サイドボードの上にあった写真がふと脳裏をよぎる。

「澤井さんは何か心に埋められないものがあるような気がします。だから今女性に興味がないとか、私みたいなつまらない女性の相手をしてくれてるんじゃないですか?」

それまで伏せていた澤井さんの目が少し大きく見開き私の目をしっかりと捉えた。

いくらなんでも自分の気持ちを言い過ぎたよね。

怒られるかもしれない。思わずぎゅっと目をつむる。

「谷浦さんはつまらない女性なんかじゃない」

覚悟したその時、澤井さんの声が私の頭上で響き、そのままぎゅっと彼の胸の中に抱きしめられた。






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