湖にうつる月~初めての恋はあなたと
澤井さんの胸の奥からドクンドクンと脈打つのが全身に伝わってくる。

私も負けないくらいにドキドキしていたけれど。

「君が自分に自信がないように、俺自身も本当にこれでいいのかっていつも悩んでいる。でも、君ならそんな風に正直に俺と向き合って俺のダメなところを指摘してくれるんじゃないかと感じていた」

彼の腕に更に力が込められる。

「だから、君にそばにいてほしいと思ってしまった・・・・・・それが谷浦さんと付き合いたいと思った本当の理由」

「私なんて・・・・・・」

澤井さんの腕の中でそう言い掛けて、ぐっと口を閉じた。

「私、もっと素敵な女性になりたいです。澤井さんと一緒にいることでどんな風に変わっていけるのか、私自信も知りたい」

彼の体がゆっくりと私から離れていく。

「俺のわがままに付き合ってくれる?」

澤井さんは穏やかな目で微笑んでいた。

本当はそんなんじゃないのに。

私が澤井さんに付き合ってもらってるのに。

私を一枚上手のような気にさせてくれているけれど、澤井さんはきっと全てをわかって言ってるんだと思う。

彼の手のひらの上で、もう少し揺られていよう。

自分の殻を破った時に見える景色をきちんと澤井さんに伝えることができるまで。

そんな自分になりたいと思いながら、澤井さんの隣で笑う彼女の写真がやっぱり忘れられないでいる私のゴールはまだまだ先なんだろうと感じていた。

そして、澤井さんの心の奥に封じ込めている闇が少しでも晴れることを願わずにはいられなかった。

「さ、次は谷浦さんのこと教えて」

澤井さんは私の頭をそっと撫でると、そのまままた深くソファーにもたれた。

体の熱が急速に冷えていく。

人肌ってこんなにも熱を持ってるものなんだ。そして安心感のあるものだって初めて感じていた。
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