湖にうつる月~初めての恋はあなたと
澤井さんは足を組んだまま、じっと私の方を見つめていた。

私は手に持ったカップの中で揺れるカフェオレを見ながらコクンと頷き話しはじめた。


私が小学5年生の時、母が病気で急逝し父が男手一つで私を育ててくれた。

そのせいもあって、かなり箱入り娘として育てられている。だから、未だに門限があるから自由な時間も少なく男性と出会う機会もない。結局、今のように男性が苦手で恋愛もしたことがない状況になっている。

父は地元で小さな和菓子屋を営んでいるけれど、最近和菓子が売れなくなり、一念発起で和菓子の材料を使って洋菓子を作ってみたら一気に売上げも伸びたらしい。

私は一人っ子だから、本当は父の和菓子屋を継げればいいんだけど、何分こんな引っ込み思案な性格だから父も私には期待していないみたいだった。


「和菓子屋で洋菓子って言う発想はおもしろいね。お父さんはどんな洋菓子を作っているの?」

「和三盆を使ったロールケーキとか、甘栗入りのマロンケーキとか、あと抹茶プリンが一番人気です」

「和の食材は甘みも控えめだし、品のいい仕上がりになるから男女共年齢問わず喜ばれる味になるだろうね」

妙に納得することを言うのは、きっと食品関係の営業をしているからだろうと思いながら聞いていた。

「で、谷浦さんは継ぐ意思は全くないの?」

店を継ぐっていうのは生半可でないことは承知している。

ただ、子どもの頃から父の隣で一緒におまんじゅうを作るお手伝いをしたり、色とりどりの美しい餡が繊細な文様を生み出す様は見ているだけでワクワクした。

今でも時間がある時は時々プリンやケーキを焼く手伝いもしている。

正直、お菓子作りは好き。

人前に立つのは苦手だけど、厨房には何時間でも立っていられた。

だけど、好きだからといって、その店全てを管理できる能力は自分にはないと思っている。

「好きだけではどうしようもないこともあります」

私は苦笑しながら答えた。

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