湖にうつる月~初めての恋はあなたと
車は住宅街を抜け田舎道に入る。

澤井さん曰く、この先に広い公園があってその園内に小さい美術館があるという。

まだ名も知られていないような芸術家の卵達が自分の作品を展示しているらしい。

「駆け出しの芸術家の作品は、発展途上な感じが好きなんだ。まだこれからもっと磨かれて変化していくだろうっていう先を想像しながら見ることができる」

澤井さんは前を向いたまま言った。

「完璧完全で、いわゆる出来上がったものには俺には全く魅力を感じない。あくまで俺の主観だけど」

あまり絵画を見に行くことがなかった私にはよくわからないけれど、澤井さんの言っていた感覚はわかるような気がしていた。

「それは女性も同じ。何もかも完璧すぎる女性は逆に引いてしまうよ。君くらいが丁度いい」

「そうですね。私はまだまだ完璧にはほど遠いでしょうから」

私がそう言うと、彼は嬉しそうに笑った。

「おかしいですか?」

「いいよ、とても素直で」

素直。

素直なんだ、私って。

彼に何度か言われた『素直』というその言葉の響きは、私にそのままでいいんだよって言ってくれているようで心が温かくなる。

「ほら、目の前にある公園の奧に薄茶色の建物が見えるだろ?そこが美術館」

澤井さんはフロントガラスの向こうに見える緑の平原を指刺して言った。

冬だというのに、しっかりと芝が手入れされている広大な公園が目の前に見えてきた。

駐車場に停めて、公園の奥に見える美術館目指して2人で歩く。

もちろん私の右手は彼に握られていた。

ワインで体が火照ってることも手伝って、外は冷たいのに手のひらには汗が噴き出している。なんて汗っかきなんだと思われやしないかまたドキドキが復活していた。
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