神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~

《二》それは、口に出してはならぬ。

ハクコが儀式のために衣装替えをするとのことで、咲耶は先に神殿内へと通される。
そこは、咲耶が車のなかだとばかり思っていた、あの、一番最初におかしいと感じた場所と酷似していた。
違うのは、その広さが倍になっただけである。

(布団……とかないし、やっぱ形だけってコトなのかな……?)

勝手に早とちりしていた自分に、咲耶は気恥ずかしくなってしまう。

(そりゃ、そうだよね。いきなり、お互いのコトなんにも知らない男女が、なんて)

「──待たせた」

言って、結っていた髪をほどいた(うちぎ)姿のハクコが現れた。咲耶は、思わず口を開く。

「あの、儀式って、具体的に何をするんですかね?」
「──(あかし)を、立てる」
「えーと……?」
「お前が、私の(あるじ)であるという、証だ」

首を傾げた咲耶に、ハクコが言葉を重ねたが、重ねられるほどに疑問が増えそうで、咲耶はこっそり息をつく。

(全然、イミ解んないんですけど……)
それでも、文脈だけをとらえて、訊き返してみる。

「あなたが私の主、ではなくて?」
「そうだ。逆はあり得ない」

答えると、ハクコは自らの着物の帯を、するりとほどいた。

(へ?)

その所作に、咲耶の心臓が、どくんと強く脈打つ。

「ま、待って! あの……外、人がいっぱいいるよね? あの、ここでどうこうって、その……」
「場所を指定しろ。そこに(あと)をつける」
「はい?」
「お前の身体だ。お前の好きな箇所を選べ」

咲耶の真意はまるでハクコに伝わらず、そしてやはりハクコの言うことは、まるで理解ができなかった。

そんな咲耶の前で、ハクコが瞳を閉じた。自分の身体を抱きしめるように、その身をやや前に倒す。
ぶるっとハクコが身体を震わせると、ふっ……と、一瞬にしてハクコが袿だけを残して消えた──。

(嘘っ……)

目を見開いて、咲耶は床に落ちた袿を見つめていた。
直後、袿が生き物のようにもぞもぞと動いて──否、袿のなかから、小さな白い獣が這い出てきた。

(ホワイトタイガーだ……)
< 10 / 451 >

この作品をシェア

pagetop