神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~

《十一》秘匿された扉が、開かれる

“下総ノ国”の白い“花嫁”の“神力”は、“神逐らいの剣”をも凌駕(りょうが)する──。

“大神社”内に集った貴族を中心とする『官』も、商人を始めとする『民』も。
目の前でなされた『神の再生という名の復活劇』に、畏敬と畏怖をいだかざるを得なかった。
さらに、白き“神獣”の“化身”が直後に起こした奇跡が、そのことに拍車をかけた。

「咲耶、お前の願いを叶える」

そう言って、自らの“花嫁”の想いに添うため為された“神獣”の御力は、“下総ノ国”中に癒やしの風を吹かせ、傷を負ったすべての者を救ったのだった。
──ひと足早い春の訪れを告げる、桜の開花をもたらすと共に。





「あの……和彰?」
「なんだ」
「ちょっと近……──なんでもない」
「そうか」

文机(ふづくえ)に向かい筆を持つ咲耶の背後で和彰が微笑む。
まるで背もたれのようにぴったりと張りつく自らの伴侶に、咲耶は二の句が継げないでいた。
元に戻ってから一週間というもの、和彰が咲耶の側から離れることは数えるほどしかない。

(さすがにもう、限界かも……)

ちらりと上目遣いに見やれば、愛おしそうにこちらをのぞきこむ瞳と目が合って。

(……ダメ。私には美穂(みほ)さんみたいな対応はムリ)

赤い“花嫁”のように邪険にすることもできず、咲耶はあきらめて筆を置いた。

「文は書かぬのか?」
「……うん。あとにする」

事の顛末(てんまつ)を問うため、愁月宛てに(したた)めかけた手紙。本当は、何をどう書いたら良いのか分からないというのもあった。
……和彰が側で見ているのなら、なおさらだ。

「ならば、私にお前の顔をよく見せてくれ」
「へ? 私の顔なんて見て、どうするの?」
「お前と同化している時、お前の心は強く感じられたが、肝心のお前の顔を見ることができないのが不満だった」

和彰の腕のなかでくるりと回転させられ、否応なしに向き合う形となる。ひざ上に乗せられた体勢に、咲耶はあわてて言った。

「ちょっ……、まだ昼前なのにっ」
「……私と『仲良くする』のに刻限があるのか」
「そ、そうじゃないわよ。だけど、いくらなんでもくっつき過ぎで──」
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