神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「言われなくても下ろすわよ。うるさい子ねぇ」
めずらしく装いは、緋色を基調とした狩衣と黒い指貫という『男装』なのだが、その口調は相変わらずのセキコ・茜であった。
「──ああ、咲耶。お招きありがとう。アタシたちの席はソコかしら?」
「ご無沙汰してます、茜さん。えっと、あの……」
「この子? 美穂よ、間違いなく。髢付けてるだけ」
とまどう咲耶に気づいて、茜が念を押してくれる。
というのも、茜の腕に抱かれた少女の顔は見えず、咲耶から見える後ろ髪が、長く垂れ下がっていたからだ。
「今晩は、美穂さん」
「…………遅くなって、ゴメン」
声をかけると、仏頂面の横顔で、気まずそうに応えてくれた。
そうして、茜と美穂が座席に腰を下ろしたところへ、椿が桶と手拭いを持ってやってきた。
「薬はいらないわ。曲がりなりしも“神籍”にあるんだから、冷やすだけで充分よ。ありがとう」
小さな壺を差し出す椿に対し、茜が片手で制しながら微笑む。
咲耶はその言葉に、美穂と茜を交互に見た。
「ケガでもされたんですか?」
瞬間、茜が噴き出したのと同時に、美穂の拳がその横っ腹をなぐりつけた。
「はうっ……。愛が痛いわ……」
「ねー、ちょっと、あんたたち!」
身をよじって泣き真似をする自らの伴侶を完全に無視して、いつもより可愛いらしい装いの赤い“花嫁”が、庭先にいる“眷属”たちに話しかける。
「せっかく来てやったんだから、なんか面白いモン見せなさいよ。
そこの眼帯つけた赤い犬! 腹芸とかタコ踊りとかできないの?」
「はっ? 俺っ?」
ひざ丈の筒袴から伸びた細い両足を投げ出し、美穂が犬朗に無茶振りをする。
その片方の足首に、茜が水に浸した手拭いを置いた。
「……久しぶりに山道を歩いて、挫いたのよ」
咲耶の視線を感じたらしく、茜がこっそり耳打ちしてくる。
「じゃ、そっちのタヌキ耳! パンダとかコアラとかに、化けるとかは?」
「ぱ、ぱん? こ、あら? って、なん、ですか?」
「は? 知らないの?
ちょっと、咲耶。あんたのとこの“眷属”使えなくない?」
めずらしく装いは、緋色を基調とした狩衣と黒い指貫という『男装』なのだが、その口調は相変わらずのセキコ・茜であった。
「──ああ、咲耶。お招きありがとう。アタシたちの席はソコかしら?」
「ご無沙汰してます、茜さん。えっと、あの……」
「この子? 美穂よ、間違いなく。髢付けてるだけ」
とまどう咲耶に気づいて、茜が念を押してくれる。
というのも、茜の腕に抱かれた少女の顔は見えず、咲耶から見える後ろ髪が、長く垂れ下がっていたからだ。
「今晩は、美穂さん」
「…………遅くなって、ゴメン」
声をかけると、仏頂面の横顔で、気まずそうに応えてくれた。
そうして、茜と美穂が座席に腰を下ろしたところへ、椿が桶と手拭いを持ってやってきた。
「薬はいらないわ。曲がりなりしも“神籍”にあるんだから、冷やすだけで充分よ。ありがとう」
小さな壺を差し出す椿に対し、茜が片手で制しながら微笑む。
咲耶はその言葉に、美穂と茜を交互に見た。
「ケガでもされたんですか?」
瞬間、茜が噴き出したのと同時に、美穂の拳がその横っ腹をなぐりつけた。
「はうっ……。愛が痛いわ……」
「ねー、ちょっと、あんたたち!」
身をよじって泣き真似をする自らの伴侶を完全に無視して、いつもより可愛いらしい装いの赤い“花嫁”が、庭先にいる“眷属”たちに話しかける。
「せっかく来てやったんだから、なんか面白いモン見せなさいよ。
そこの眼帯つけた赤い犬! 腹芸とかタコ踊りとかできないの?」
「はっ? 俺っ?」
ひざ丈の筒袴から伸びた細い両足を投げ出し、美穂が犬朗に無茶振りをする。
その片方の足首に、茜が水に浸した手拭いを置いた。
「……久しぶりに山道を歩いて、挫いたのよ」
咲耶の視線を感じたらしく、茜がこっそり耳打ちしてくる。
「じゃ、そっちのタヌキ耳! パンダとかコアラとかに、化けるとかは?」
「ぱ、ぱん? こ、あら? って、なん、ですか?」
「は? 知らないの?
ちょっと、咲耶。あんたのとこの“眷属”使えなくない?」