神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
装いと声は可愛いらしいが、言っていることはかなりヒドイ。

咲耶が苦笑いを返していると、犬朗が思いだしたように声をあげた。

「お、そうだっ!
俺らなんかのつまんねぇ芸より、旦那、アレ見せてくださいよ。咲耶サマが旦那に見惚れたっつーアレ!」
「……何の話をしている」
「ちょっ……、犬朗! やめてよ、みんなの前で!」
「えー? なにソレ? あたしも見た~い! もったいつけないで見せなさいよ、ハク!」
「ヤダ、美穂ったら! ホントお下品なんだから。ハクの裸踊りなんか見たいのぉ?」

犬朗の提言にあわてる咲耶を見て、美穂と茜は悪ノリしたが、当の和彰は騒ぐ者たちを無表情で見ている。

黒虎毛の犬が、赤虎毛の犬の首を締め上げた。

「……貴様、ハク様に何をさせる気だ」
「おわっ……落ちつけ、犬貴!
そーゆうんじゃなくてだなぁ、旦那が前に“結界”の修復で見せたっつー『舞い』の話だって!
なっ、咲耶サマっ?」

必死の形相でふられた話題に、場の注目が一気に咲耶に集まった。

「えっと、あの……」
「咲耶サマだって、もう一度、見てみたいって言ってたよな?」
「そうなのか、咲耶?」
「…………うん」

自分の想いなど、この場にいる全員が知っているだろう。
それでも咲耶は和彰の問いかけに、気恥ずかしさのあまり小声でしかうなずけない。
そんな咲耶に、白い“神獣”の“化身”は事もなげに立ち上がった。

「分かった」

それまで成り行きを黙って見ていた闘十郎が、ひざを叩いた。

「どれ、ではわしが(しょう)を取るとするか。曲は?」
「おそれながら……『つまごい』かと存じます」
「ふむ。愁月らしいの。それで、おぬしは?」
「……鼓でしたら、少々」

犬貴と闘十郎が、ふたりだけにしか解らない会話をしている。
美穂が勢いよく片手を上げた。

「ハイはーい!『つまごい』なら、あたしも付き合うよ。(そう)で」
「あら。足は大丈夫なの?」
「だって、面白そうじゃん!」

──そうして、和彰の『舞い』のため、闘十郎が笙を吹き、犬貴が鼓を打ち、美穂が箏をつま弾くこととなった。



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