アシンメトリー
あの人とのメールのやりとりは一日中ではなく、一日1通だけ、返事がこない事が怖かったから。
私は、欲張る気持ちを押し殺していた。
私とあの人しかわからない言葉のやりとりを見返してニヤニヤして、あの人だけのフォルダーボックスを見つめて、もっと言葉を交わしたいと言う欲望を自制していた。
結果的にテストは散々な結果で、次の学年に進級する時に自分が希望する特進クラスにも入れないかもという窮地に立たされていた。
でも、私の心は落ち込む兆しもなく、毎日が満ちたりていた。
誰も知らない電話番号、メールのやりとり、その現実はあの人の私は特別なんだって思い込んでいた。
あの人は、私が知っている大人なんかじゃないって思いたかった。
私達の生きる世界の中にいる大人はいつも嘘つきで、自分達の事ばかりで甘くて優しい言葉は自分を守る言葉ばかりで、本当は私達の事なんて一つも考えてはいない。
私が好きだって思った人がそんな人なはずがない。
そう思っていた。
でも、きっと、あの人の発する言葉は私の頭の中でいつも魔法みたいに全てを変換して、あの人の本当の真実の姿をねじ曲げていた。
私はただ真っ直ぐにあの人の背中を追いつく事だけを考えて、ずっとあの人に認められる事だけをしんじて生きる事になるなんてこの時は思ってもいなかったのだ。
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