アシンメトリー
どんなに好きだったか君は知らない
それから私は高校を卒業した。
結局、あの時、あの人と違う好きだった人とはうまくいかず、また失恋していた。
あの人の事は思い出す事もあったけれど、連絡先を消してしまい、連絡する事さえも出来なくなった。
その後、あの人の事ももう思い出す事も無くなるくらい月日が流れて、色々な出会いや別れを経験して、私は大人になった。
大人な世界に憧れていた自分が今は、あの頃に戻りたいとさえ友達と話しているなんて考えもしなかった。

あの日、私がまたあの人と会う事になるなんて考えもせずに、仕事終わり、久しぶりに同級生と会うことになり、地元に帰省していた。
店のカウンター席で同級生とお酒を呑みながら、昔話に花が咲いていた。
いつの間にか吸うようになったタバコを吹かしながら、ハイボールを飲む私の顔をまじまじ見ながら、友達がいった。

「かおる、久々に会ったけど、ほんま別人やな。中学ん時の面影もないから、すれ違っても解らんわ。あんた地元離れてからなんかあったん?」

髪をかきあげながら、少し考えたあと笑いながら、私は言った。

「いや、まぁ、色々ありすぎるほど、あったな…まぁ中学生なんて、今考えたらなんも解らん子供やったし。何年も経てば、変わるやろ。」


私は、ハイボールが入ったグラスを傾けながら、中学生の思い出が頭の中に駆け巡っていた。
その中にあの人の顔が何度か浮かんでいた。
私は懐かしい気持ちと同時にあの人に確かに恋をしていたんだと言う気持ちを思い出して、ほくそ笑む。

そんな私の姿を見て、友達が笑いながら「どうしたん?」と聞いた。

「いや、矢田先生の事思い出してさ。なんか、あの人、ずっと眉間にシワよせてへんかった?最初めちゃ恐かったわ。」

私は笑いながら眉間に指を当てて、友達にいった。

「でも、かおる、中学ん時、矢田先生の事好きやったやろ?」

「はぁー?なんでそうなるん?」

私は動揺して真っ赤になった顔を隠すようにハイボールを一気に流し込んだ。

そんな私を見た友達が言った。

「だって、矢田先生の話してる時のさっきのかおるの顔、嬉しそうやったし。嫌いな人の話する顔やないやん。なんか、好きな人の話ししてる時の女の子の顔やったで。」

そんな友達の言葉に私は久しぶりに気づかされた。
あの人の話をしている私は久しぶりに高揚感が湧き上がり、あの時と似た感覚がまた蘇っていた。

「好きやったんかな?なんかよう分からんわ。さっきさ、なんかあったから今みたいになった?ってきいたやん。それ、矢田先生に昔タイプやないからって言われた事があってんな。だから、それから私、絶対自分が好きになった人にそんな風に言われたないって思うようになってさ。今のこんな屈折した最低な私を形成したんはあの人やで。」

そう冷たく言い放った私を心配そうに友達が見ていた。

好きになると、その人が発する一言はきっと何十倍もの影響力があると今でも思う。
あの日から私は恋で傷つかないように、メイク、ダイエット、ファッション、全てにおいて完璧でいようと思う様になった。
見た目が変われば変わるほど、周りの対応も変わっていた。
好きな人にも振り向いて貰えたし、傷つくより誰かを傷つける側にいる最低な自分に今はなっていた。
ある意味、あの時、あの人が私を傷つけ突き放した事で私は変われた。
そうなれたのはどこかで、忘れていたあの日のあの人をいつか見返してやりたいって思って過ごしていたからだった。

「かおる、今度さ、こっちかえってきたら矢田先生のおる学校会いに行ったら?私、赴任先知ってるし。」

私はその友達の言葉にきつい口調でいい返した。

「仕事忙しいし、無理や。別にあの人に会いたくないし。」

友達は深くため息をつく。

「かおる、意地はるんやめーや。さっきのかおるの言うた事、今みたいになったんは、全部矢田先生の為やって言うてるようなもんやで。普通、そんな人嫌いになってもおかしくないし、今のかおるなら矢田先生なんて眼中にないんやから、本人に会ってその拗らせた感情終わらせ。」

友達はLINEで自分の予定を送信すると、「ちゃんと、帰ってきーや」とメッセージを添えていた。

私は「あほちゃう?」と鼻で笑う。

私があの人の為に?
そんな事絶対ない。
もう好きでもなんでもないんやし、むしろ嫌いやから。
会ったところで何にも思わん。
むしろ、こっちがタイプじゃないって言い返したる

とその時心の中で思っていた。

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