愛してるからこそ手放す恋もある
抗がん剤治療は精神的にも体力的にも大変だと聞く。
医師からは体力をつけてから抗がん剤治療をしましょうと言われ、一度退院することになった。
家に帰ると家族は勿論、店の従業員までもが心配し、私を気にかけてくれる。両親は店が忙しく、私は小さい頃から一人で居たため、一人でいる事はなれている。お陰で、料理はそれなりに出来るが、退院してからは食事は兄夫婦が栄養のあるものをと作ってくれる。
「お兄ちゃん、食事ぐらい自分で適当に作るから大丈夫だよ?」
もともと兄は海外の三ツ星レストランを渡り歩いていた。だが、父が亡くなってからは、父が残した店と家を兄が守ってくれている。
兄の料理の腕は良いらしく、今もなおいろんな国の王室から声が掛かるらしい。
そして生まれて間もない兄夫婦の児を母が見ているのだ。
だから、みんな私の事ばかり気にしていられない筈なのに、ほんと申し訳ない。
「バーカ!お前だけの為じゃない!賄いを作るついでに作ってるんだ!だから皆のためなんだよ!梨華が気にすることはないからな?」
お兄ちゃんありがとう…
「今日はお昼良いからね?」
「あぁ、会社に行くんだったな?一人で大丈夫か?」
「うん。大丈夫!会社の人達とランチしてくるよ!」
心配する兄にこう言ったものの会社の人達とランチするつもりは無い。
「気を付けて行ってこいよ?」
「はーい」
会社には病院も病名も知らせてなかった。
知らせれば、必ず会社のひとがお見舞いに来てくれるだろう。そして病名の話になる。そうなれば涙を堪えて話す自信がない。まだ私自身が、癌だと言うことを受け入れていないのだ。
だから体調悪くしたと言って休ませて貰っていたが、これ以上はもう無理だろう。これからの治療にどれだけの時間が掛かるか分からない。これ以上、会社に迷惑掛けることは出来ない。家族とも相談して会社は辞める事にした。そして昨日のうちに書いた退職願いを鞄に入れて会社へと向かう。