副社長は花嫁教育にご執心


「姉さんの職場って、イブとかそういうイベントごとがかき入れ時っぽいけど、意外に休めるんだね」

なんてちょっと返答に困ることを言われ、たまにはそういうこともあるよと適当にかわし、なんとか無用な心配はかけずに済んだ。

遊太に伝えた料理のリクエストは“簡単かつ灯也さんを唸らせる料理”なんてわがままなもの。しかし、嫌がるどころか途中で買い出しまで済ませ、料理の苦手な姉に根気よく付き合ってくれている。

「ねえ何この葉っぱ。美味しいの?」

彼が教えてくれたのは、牛肉をトマト缶と赤ワインで煮込むというなんだかお洒落なメニュー。その鍋に浮かぶ見慣れない葉を見つめて、遊太に聞く。

「それはローリエ。固くて食べられないよ」

「食べられないものなんで入れるの?」

「風味付け。……ねえやっぱ姉さんって料理向きじゃないよその思考」

小皿に口をつけ、煮汁の味見をしていた遊太に呆れられて、急に慌てる。

「やだごめん、お願いだから匙投げないで」

「はいはい、そしたらちゃんと自分でも味見てみな」

遊太に小皿を渡され、鮮やかなトマト色のスープをずず、と啜る。

お、美味しい……。どうしたらこんな複雑で深い味わいになるんだろ。


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