副社長は花嫁教育にご執心
果たしてこの料理を自分一人でできるようになるのか、という不安にさいなまれ、思わず眉根を寄せたその時だった。
ふいに、来客を知らせるチャイムが鳴り響く。
「え、誰だろう」
「わかんないけど、出た方がいいんじゃない? 嫁でしょ?」
「そりゃそうだけど……」
そういえば、この家に来てから、来客の応対をするのは初めてだ。私はちょっと緊張しながら、壁に取り付けられたカメラ付きのインターホンの前に立つ。
モニターに映し出された共用エントランスに立っているのはひとりの男性で、知らない顔ではなかった。
フチなし眼鏡に中性的な顔立ちの、灯也さんとは違うタイプのイケメン。先週は一緒に軽井沢旅行もした仲でもある、ちょっと毒舌な彼である。
「小柳副支配人?」
思わずマイク越しに尋ねると、画面の向こう側の彼は表情を変えずに言う。
『すみません、ちょっと設楽に頼まれごとがありまして』
灯也さんに頼まれごと? なんだろう。自宅に忘れ物でもしたのかな。
「わかりました、開けますね」