副社長は花嫁教育にご執心
「あのう……」
彼の目的が分からず怪訝そうにする私に、小柳さんはにこっと笑って言った。
「すみません、お騒がせして。もう見つかったので大丈夫です」
「えっ。もう?」
「ええ。設楽の趣味ではない男物の靴が一足」
小柳さんは、玄関に並ぶ靴のなかの、青いスニーカーを指さした。
……はあ。そりゃ、灯也さんの趣味じゃない靴はあるのは当たり前だよ。遊太が来てるんだから。
「小柳さん、この靴は弟の――」
「まさかご兄弟のだとでも言うつもりですか。この期に及んでみっともないですよ? しかしどこぞのゲスな芸能人のように、自宅で堂々と不倫する浅はかな者が身近に存在するとは驚きですね」
「えっ……?」
ふふ、不倫? どこをどうしたらそんな解釈に?
まったく身に覚えのないワードが飛び出し、頭が真っ白になって何も言い返せない。
そんな私にひとつため息をついた小柳さんは、「では、私はこれで」と冷たく言い残し、玄関を出て行ってしまう。
も、もしかして小柳さんはとんでもない誤解を……。そして、これから灯也さんにその誤解を報告するんじゃ……。
私の全身からサッと血の気が引いた。