副社長は花嫁教育にご執心
「……お客さん、誰だったの?」
魂が抜けたような状態でふらふらとキッチンに戻ると、遊太が完成した料理を、私たちのお昼ご飯用にテーブルに並べてくれているところだった。
私は彼の質問には答えず、神妙な面持ちで尋ねる。
「遊太って……彼女にさ、浮気とか誤解されたことある?」
突拍子のない質問に遊太は目を丸くし、少し考えてから笑って首を横に振った。
「まさか。俺は姉さんの世話で手一杯って、彼女も知ってるし」
「そ、そうだよね……あはは、悪いねいつも」
「何言ってんの今さら」
鼻で笑われ、「早く食べようよ」と促されるまま席に着いた。
遊太の料理は美味しいし、わかりやすい手書きのレシピまでもらえたのだけど、私の心はクリスマスどころではなくなってしまった。
でも、誤解は誤解。真実じゃないんだし、遊太にだって証言してもらえば私の濡れ衣は晴れるはず……。
だいいち、灯也さんは小柳さんの話をまるっと鵜呑みにするような人じゃないよね? 私の話を聞いたら、きっと信じてくれるよね?
自分にそう言い聞かせつつも、心はざわざわと乱れた。
けれど、灯也さんが帰ってこなければ何にもならない。ひとりで考えていたって、解決なんかしないよ。