副社長は花嫁教育にご執心
心を覆いつくす不安を一旦忘れるため、遊太が帰った後も私はキッチンに立ち、料理の練習をした。
灯也さんのお母様から教わったチーズケーキのレシピにも挑戦し、一度目は表面を真っ黒に焦がすという大失敗をしてしまったものの、二度目はなんとか形になった。
ホールケーキのままで披露したいから味見ができず、ちょっと心配ではあるけれど、明日灯也さんが喜んでくれますように、と祈りながら、冷蔵庫に保存した。
――その夜、灯也さんはなかなか帰ってこなかった。
前日も遅かったけれど、二日連続で深夜まで残業というのは珍しい、というか一緒に暮らし始めてから初めてだ。
それにしても、連絡のひとつくらい入れてくれてもいいのに……。
やきもきしていてもたってもいられず、彼の携帯にSNSでメッセージを打つことに。
【今日は、朝体調が悪かったので仕事を休みました。小柳さんが自宅にいらして、何か誤解をされたようでしたが、家に来ていたのは弟の遊太です。そのことを直接お話したいので、今夜は寝ないで灯也さんの帰りを待ってます】