副社長は花嫁教育にご執心
私は脱衣所にそっと入って、ガラス戸の向こうでシャワーの音が止んだ瞬間を見計らい、一方的に呼びかけた。
「あの……携帯に送ったの、読んでもらえたのかどうかわからないので、もう一度言いますね。今日の朝、頭痛と吐き気がして、仕事を休みました。でも、そのあと元気になって……昼間は遊太に料理を教わっていたんです。その時に、副支配人が来ました。玄関に遊太の靴があったので、何か誤解していたみたいですけど……灯也さんは、その、変なこと、疑ってませんよね……?」
一番聞きたい最後のところで声が小さくなり、語尾は頼りなく震えた。
灯也さんなら信じてくれると思いたいのに、さっきの玄関での態度が胸に引っかかって、自信が持てない。
唇をきゅっと噛んで祈るように彼の返事を待っていると、しばらくしてガラス戸が勢いよく開いた。
「灯也さ……きゃ!」
そして髪からも体からも水を滴らせた彼が半身を乗り出したかと思うと、腕を強くつかまれてバスルームへ引き込まれた。
バランスを崩した体は背中から壁に押し付けられ、灯也さんは私が服を着ているというのに再びシャワーからお湯を出した。
背の高い彼の、頭より上に固定されたシャワーから、熱い雨が降り注ぐ。