副社長は花嫁教育にご執心


小柳の的確な分析に、ははっと乾いた笑みをもらす。

そうかもしれないな。自分では昔もそれなりに恋愛をしてきたつもりだったけど、ここまで強く感情が揺れ動くことがなかった。

杏奈の時も、それ以前の恋も。きっと、単に男女交際の楽しい部分を味わいたかっただけの、恋愛ごっこだったのだろう。

「まつりは、なんか特別なんだよな。……だから、いまだに抱いてないんだ」

「嘘だろ? お前、なんだその苦行は。まったく理解できない」

あまりに驚いた小柳のメガネがずれ、彼はそれを中指で直しながら苦い顔をした。

「俺もちょっとびっくりしてるよ。もちろん抱きたい気持ちは山々だけど、愛しすぎて壊したくないっていうかさ……」

「……それはそれで、まつりさんとしては不安じゃないのか? 人形じゃないんだから、優しく愛でられてるだけじゃそのうち足りなくなるだろう」

「人形か……お前なかなかうまいこと言うな」

もちろん、俺はまつりを人間として愛しているが、俺以外の人間の前ではケースにでも入れて、誰の手にも触れさせたくない……なんて、無理だとわかっているのに想像することがある。

これほど強い独占欲を抱いたのは初めてだ。

「別に褒めていただかなくて結構だ。で、だいぶ話がそれたがお前はなぜ自宅に戻りたがってるんだ?」


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