副社長は花嫁教育にご執心


「……まったく、何してくれてんだよもう」

ひとりごとのように言ったかと思うと、逞しい腕が私の背中を抱き寄せて。

「離せるわけねえじゃん……こんなに愛しい存在を」

よかった……灯也さんがようやく、心の奥の本心を、さらけ出してくれた。どこか不自然だった昨日の彼は、やっぱり本来の姿ではなかったんだ。

安堵と、うれしさと、愛しさと……押し寄せる様々な感情でじわりと目の端に涙が浮かぶ。

私はそれを瞬きで散らして、彼の腕の中でそっと顔を上げた。

「いいんです、灯也さん。私たち、離婚しなくて」

「え……?」

「灯也さんのことは、記事になりません。やましいことをしていたのは、三井さんの方だったんです」

真実を告げてもなお、灯也さんは疑問符を顔にたくさん張り付けていた。

私たちはそれからソファの方へ移動し、黒川会長に会っていたことや彼と話した内容、それからそこで遭遇した驚くべき出来事を、私は彼に話して聞かせた。

「俺としたことが……そんなバブリー野郎の低俗な罠にまんまとハメられてたってことか」

すべてを知った灯也さんは、この上なく悔しそうにうなだれた。


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