副社長は花嫁教育にご執心
犯罪者……? なんですかそれ。初耳なんですけど。
不思議そうに彼を見つめる私に、灯也さんはものすごく照れながらも“犯罪者”の意味を語り始めた。
「最初は、椿庵に、可愛い子がいるなぁっていう程度だった。でも、支配人としてフロントに立ってお客様と話したりしてると、その子の話がよく出るんだ。“あの若い子、いつも一生懸命でとっても感じがいい”とか、“お風呂よりサウナよりマッサージより、あの子の笑顔に元気もらってます”とか」
「え。それって、私のことなんですか?」
思わず自分を指さしながら驚く。接客は好きだし一生懸命はやっているけど、まさかわざわざフロントにそれを伝えてもらえるほどとは思わなかった。
「そうだよ。フロントに、お客様の声アンケートっていうのが置いてあるだろ? それにも、お前の笑顔が素敵とか明るい気持ちになるっていう声がたくさんあって、俺はさらにその従業員のことを意識して見るようになった。……そのうちに、支配人としてじゃなく、一人の男としてお前の姿を目で追う俺がいたんだ」
初めて明かされる、私の知らなかった灯也さんの胸の内。
私はてっきり、お風呂を覗かれた時が出会いだと思っていたから、そうじゃないと知って驚くのとともに、胸がジーンと熱くなる。