副社長は花嫁教育にご執心
灯也さんの家は駅から近いので、今日は電車を使って駅からは歩いてマンションへ向かった。
到着したのは午後九時ごろで、二度目の来訪とはいえマンションの高級感に慣れることはなかった。オドオドしながらロビーを通りぬけ、エレベーターに乗っている間はまた脚をふんばった。
そうして三十六階の彼の部屋へ着けば、もらったばかりの合鍵を使っていざ突入だ。
「あの……失礼します。まつりです」
明かりのついた廊下にそろりと上がり、遠慮がちに声を掛ける。するとすぐに足音が聞こえて、バスルームへ続く扉がガチャっと開いた。
灯也さん、お風呂に入っていたのかな。
「今晩は、お邪魔してま――」
ぬっと現れた人影に小さく頭を下げ、正面に向き直った私は一瞬思考がフリーズした。
「来たのか、まつり」
と……灯也さん……ハダカ……。
目の前の彼は腰にバスタオルを巻いただけ。
露わになっている筋肉質な上半身。そのところどころに水滴のついたなんとも刺激的な格好に、私は慌てて回れ右をした。
「……あー、悪いなこんな格好で」
「い、いえっ! あの、風邪を引いたら大変ですし私に構わず着替えの方を!」
「ああ、そうさせてもらう。でも、その前にちょっと言わせてくれ」
背後から、灯也さんが近づく気配がして、そのままふわりと後ろから抱きしめられた。
お風呂上がりの火照った彼の背中にくっつき、私の体温まで一気に上がった。