副社長は花嫁教育にご執心


あーあ……杏奈さんの背中がすごいスピードで離れていく……。

何だかもう疲れてしまった私は、咄嗟に追いかけようとする灯也さんを引き留めて告げる。

「灯也さん、私のことはもういいです」

「まつり?」

「私はひとりで雪ダルマでも作ってますから、杏奈さんのところへ行ってあげてください」

顔で笑って心で泣いて、とはこのことか……。そんな風に思いながら、精いっぱいの笑顔を張り付ける。笑顔笑顔。笑顔でいれば、人生は楽しくなるんだから。

本心は行ってほしくない。けれどこれ以上、杏奈さんの意のままに振り回されることになるなら、ひとりでいる方がましだった。

「……ごめん」

灯也さんはひとこと苦しげな顔でそう言って、軽やかにボードに乗り杏奈さんの滑っていった方へと消えていく。

……滑ってる姿、やっぱりカッコいいや。でも、惚れ直しちゃった、なんて気分ではまったくない。

このどす黒い感情をどうにかするのに、モアイみたいな雪ダルマでも作ってやろうかしらという、謎の職人テンションだ。

「はぁ、寒い……」

……体も、心も。胸の内でそう呟き、鼻の頭がきんきんに冷えるのを感じながら、私は無表情でモアイの土台を作り始めた。




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