副社長は花嫁教育にご執心





「あれ、まつりさんこんなところで何やってんの?」

やがて上級者コースに行っていた和香子さんと小柳さんが戻ってきて、一心不乱に雪を固める私に声を掛けてきた。

私は気難しい職人よろしく、愛想なく答える。

「これは……モアイです」

「うん、それは完成度妙に高いからわかるけど……灯也たちは?」

「知りません」

きっぱり言い切った私に、和香子さんがまさかという感じに表情を歪める。

「え、もしかして杏奈とふたりにさせちゃった感じ?」

「させちゃったていうか……あの杏奈さんの猛攻をかわせる方がいるのなら会ってみたいですよ」

深いため息を吐きながら、モアイについた邪魔な雪を払う。

うーむ、なかなかリアルにできたのう。彫刻刀でもあればなおよかったんじゃが……なんて。気難しい以外にちょっと高齢という設定まで加えて、職人まつりはモアイと睨めっこする。

「やばいよまつりさん、ホテル戻ろ?」

「わしゃーこのモアイの目のくぼみにまだ納得いっとらん」

「ちょっと! 現実に戻ってきて! 灯也が食べられちゃってもいいの!?」

な、なんですって? 灯也さんが食べられる……?

その聞き捨てならないワードでやっと、私は雪ダルマ職人(75)から野々原まつり(25)に戻った。


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