暴君と魔女





本来であるなら、引かれ、避けられたであろう自分の行動。


それでも彼はその印象のまま柔らかい人だった。


拒む事なく微笑んで、





「ありがとう」





と返すと私を距離を縮めてくれて、


近づくほどにその優しさを強く与えてくれる彼に求婚したのは私の方。


傍にいたいと、いさせてほしいと伝えれば困ったように微笑む彼が私に告げたのは自分の不備。




「僕は・・・・君に子供を残してあげられない。普通の人の半分ほどしか幸せを与えてあげられない」




暗に、他を探せと言われているのは理解した。


それでも、


幸せの物差しとは何か。


他の人なんて知らない。


ただ・・・・、私の幸せは彼といる事だった。


子供なら、秋光がいる。


自分で産めないとしても秋光は彼と自分の子だと本気で思ったし、愛してもいた。


その意思を告げれば、もう阻むものもなく。


私と彼の距離感は隙間なく埋まったのだ。










幸せだった。









本来の女の幸せなんて知らないし、知りたいとも思わない。


ただ過ごす彼と秋光との時間が温かくて、家族の時間なのだと浸って溺れて盲目になる。


今が幸せであるがゆえに気づくのに遅れた。


あんなに明確に見えていた彼の闇や未来が霞んでいる事に。


でも先に気がついたのは闇の方で、薄れた事に都合のいい解釈。


彼も今に満足して闇が薄れているのだと誤認した。


些細な予測不能だった出来事に気づいても、見えないわけでない事に気の緩み。


元々、持ち得ないこの力が霞んだところで、この幸せを覆す様な事はないと油断していたんだ。



















神様がいるのなら・・・・。




何故、彼なのか問いたい。


彼でなければいけなかったのか問いたい。





何故ですか?



彼が何かをしたのでしょうか?



彼から愛する人を奪い、足の自由を奪っただけでは足りませんでしたか?



それとも・・・・、



彼の優しさをあなたもすぐ近くに置きたいと思ったのでしょうか?






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