暴君と魔女





だけど・・・・私は知っている。


この足は、1年前には普通に道を踏みしめていたのだと。


この隣には、一緒に笑い合う女の人がいたのだと。


どこかで会った事があった?


違う、この人と出会ったのはこのカフェに勤め始めた後で、すでに車椅子にこの人は座っていた。


でもやはり私は見ていたのだ。


この人本人をその時刻にではなく、この人を通して見える過去や未来を見て知っていたんだ。


だから、子供がいる事も知っている。


可愛い男の子。


その子が幼稚園に行っている間、彼は時間をもてあましてこのカフェに来るんだ。


コーヒーを注ぎ、その香りが鼻を掠める。


コトリとテーブルにカップを置けば柔らかく耳に入りこむその声。



「ありがとう」



別に特別な事じゃない。


仕事の一つであるこの行為に当たり前だと無言の人もいればこうして謝礼を口にする人もいる。


この人も後者の1人であるだけ。


なのにその声に反応し顔をあげれば声と同じようなふわりと柔らかい頬笑みを向けられ感情の混乱。


同時に2つの感情が浮上して、


過去の記憶に対しての憐れみ、その記憶を忘れさせることがないであろう機能しない半身。


心も未だ傷が完治したわけでないであろうに。


人を癒やす様に笑う人だと思ってしまった。


ああ、この笑顔が酷く好きだと感じてしまう。


同情に対する悲哀と、自分の悲運を奥に他者を癒やす姿への敬愛。


思わず不動になって見つめてしまえば、同じようにずっと見つめ返していた彼がフッと笑う。



「・・・・いつも思ってた」


「はっ?」


「そのグレーアイ・・・・、綺麗だね」



正直、この眼を称賛される事は珍しくない。


自分でも好きな要素の一つで今更褒められても何とも思っていなかったのに。


心がざわざわと歓喜して、まともな思考より早く口から出た言葉。





「あああの、好き・・です」





シン・・と静まった店内と、さすがに驚き浮かべていた笑顔が苦笑いに変わった彼。


その姿をまともに捉え追いついた思考が自分の突発的な告白を羞恥させた。




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