海くんがわたしを好きだなんてそんなことあるわけない。
「つ、つかんでてもいいかなあ?」
控えめにそうお願いしてみる。
こうしないと、はぐれちゃう。
「...いいよ」
海くんはつぶやくみたいにそれだけ言って、やっとわたしのほうを向いてくれたのに、また前だけ向いて歩きだしてしまった。
「...もう店に着かなくていい...」
そんな彼のさらなる呟きなんて、わたしの耳に届くわけなくて。
ただ、ミルクティー色の髪の毛の隙間から見える耳が、いつもより赤いことだけは気がついた。