【完】キミさえいれば、なにもいらない。
その声にハッとして振り返る。


「えっ……」


すると、そこにはカバンを持った一ノ瀬くんが立っていて。


驚きのあまり目を見開く私。


っていうか、変なところ見られちゃった。恥ずかしい。


「い、一ノ瀬くん。なんで……」


「いや、ちょうど今帰るところだったから。雪菜こそ、何してんの?」


そう尋ねられて、一瞬ためらったけれど、正直に話す。


「それが、さっきこの溝の中にバレッタを落としちゃったみたいで、探してて……」


「えっ、マジで?」


「でも、全然見つからなくて……」


それを聞いた途端、地面にドサッとカバンを下ろす一ノ瀬くん。


そして、あろうことか、自分もしゃがんで溝の中を覗き込むと、水面に向かって手を伸ばした。


「え、ちょっと……!」


ウソ。探してくれるの?


――バシャッ。


< 158 / 370 >

この作品をシェア

pagetop