【完】キミさえいれば、なにもいらない。
「ねぇ、一ノ瀬くんっ」


しびれを切らしたようにもう一度名前を読んだら、彼は一度手を止めて、こちらを振り返った。


「でも、雪菜のお母さんが作ってくれた大事なバレッタなんだろ?」


「えっ……」


一ノ瀬くんの瞳が、まっすぐに私をとらえる。


「大丈夫。俺が絶対見つけてやるから。待ってて」


力強く放たれたその言葉に、思わず胸がジーンとして、泣きそうになってしまった。


ねぇ、どうしてなんだろう。


どうして一ノ瀬くんは、そんなに一生懸命になってくれるの?


私なんかのために……。


雨に打たれながらも必死でバレッタを探す彼に、持っていた折り畳み傘を広げて、そっと差してあげる。


途中、彼は「雪菜が濡れたら困るから俺はいい」って言ってくれたけど、私は彼が濡れるほうが困るので、少しでも彼が濡れないようにと傘を差し続けた。


すると、そんな時……。


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