【完】キミさえいれば、なにもいらない。
そんなふうに言いきってしまう彼は、なんだかとても頼もしくって、ちょっとだけカッコよく見えた。


「気を付けてねっ」


ドキドキしながら彼の様子を隣で見守る。


一ノ瀬くんは、さらに顔を突っ込んで、溝の中に手を伸ばす。


すると次の瞬間……。


「やった!取れたっ!!」


嬉しそうな声と共に、彼が起き上がり、こちらに顔を向けて。


泥だらけのその手には、確かに、私が落としたはずのバレッタが握られていた。


ウソ……。すごい。


ほんとに見つかった。


一瞬もうダメかもしれないって、あきらめてたのに。


私のために、一ノ瀬くんが必死で見つけ出してくれたんだ。


「雪菜、ほらっ」


一ノ瀬くんはそう言って、バレッタを私に差しだす。


「あ、ありがとうっ」


私はそれを受け取った瞬間、感激のあまり目が潤んでしまった。


どうしよう。嬉しい……。


まさか彼が、ここまでしてくれるなんて。


何度お礼を言っても足りないくらいだ。


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