【完】キミさえいれば、なにもいらない。
手に持ったバレッタをまじまじと見つめる私に、一ノ瀬くんが声をかけてくる。


「ちょっと汚れてるけど、洗ったら綺麗になるはずだから」


「うんっ。本当にありがとう」


もう一度礼を言い、バレッタをギュッと握りしめる。


そしたらそんな私を見て、一ノ瀬くんがホッとしたように笑った。


「ふっ、よかった」


顔を上げ、彼のことをよく見てみると、手が泥だらけで、髪も雨に濡れて、制服も少し汚れてしまっている。


そんな彼の姿を見て、急にまた申し訳ない気持ちになる。


「あの、なんか、ごめんね。私のために付き合わせちゃって……」


思わず謝ったら、彼は微笑みながら答えた。


「いや、雪菜のためならこんなのどうってことないよ。それより、見つかってほんとによかった」


その優しい笑顔に、胸がトクンと音を立てる。


そんなふうに言われたら、少しときめいてしまいそうになる。


「あっ……」


するとその時、ふとあることに気が付いた。


「やだ。一ノ瀬くん、ケガしてる」


「え?」


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