【完】キミさえいれば、なにもいらない。
するとその様子を見ていた璃子が急に私の腕をギュッと掴んで。


「おっ!噂をすれば彼のお出ましだよ!」


なんて言いながら、彼方くんのいるほうまで強引に引っ張っていった。


「ちょ、ちょっと、璃子……!」


そのまま彼方くんと話していた女の子たちと入れ替わるようにして、彼の目の前に連れてこられた私。


「ほらほら~、行ってきなよ~」


そう告げながら私の背中をトンと押すと、そそくさと去っていく璃子。


「……えっ!雪菜?」


驚いた顔でこちらを見る彼方くんと目が合って、思わずうろたえる私。


あぁ、どうしよう。さっそくメイド服姿を見られちゃった。


いきなりこんな格好で現れたら何だって思うよね。


「あ、あの……っ。これは今、仮装喫茶の衣装の試着をしてて、それで……」


彼方くんはそんな私をじっと見つめたまま、数秒間固まる。


その顔はなぜか真っ赤になっていて。


「え……ちょっと待って。なにその格好。反則なんだけど……」


「えっ?」


反則?


「可愛すぎて、無理」


そう言いながら片手で口元を押さえる彼を見て、何ともいえない照れくさい気持ちになる。


そんな大げさなリアクションをしなくても……。



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