冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
「はー。で、愛しの奥さんは今なにをしてるんだよ?」

「さあ? ここ連日、マーシャを連れて厩舎に足繁く通っているらしい」

「厩舎? あんなところに通ってなにが楽しいんだ?」

 若い女性が通い詰める理由がルディガーには思い浮かばない。

「なにをしているのか、おおよそ見当はつくが……」

 続きを言いよどみ、スヴェンはようやく書類から顔を上げた。

「調教師が昔なじみだったらしい」

「ああ、彼。たしかライン氏のところの。そういえば養子だって話してたな」

 エリオットの顔を思い浮かべながら、ルディガーは情報を整理して腑に落ちる。スヴェンはあまり興味がなかったので、エリオットとライラが知り合いだということにまったくピンと来なかったのだが。

「それは彼女にとっては心強いな」

 ルディガーはにこやかに笑う。男女ともに好感をもちそうな爽やかな笑顔だ。対照的にスヴェンは眉を曇らせた。

「だが彼はフューリエンの件については知らないらしい。なまじ知り合いな分、面倒なことにならなければいいが……」

「心配するのはそこか?」

 顔を引きつらせてツッコみ、ルディガーはやれやれと首を振った。焦げ茶色の短い髪が軽やかに舞う。

「こんな優しさの欠片もない無愛想な夫といるくらいなら、自分をよく知る幼馴染みと一緒にいた方がいいだろ」

 誰に言うでもなく、宙を向いて言い放ったルディガーのひとり言は部屋の空気にさっと消えた。
< 70 / 212 >

この作品をシェア

pagetop