砂糖よりも甘い君
あまり人のいない場所につくと男の人が私を振り向いた。


「堂本紅華さんですか?」


「は、はい。どうして私の事……」


「いきなり連れ出してしまい申し訳ありませんでした。私はこういうものです」


差し出された名刺を手に取って名前を見る。


ウッドカート事務所 honey専属マネージャー 沢口(さわぐち)(りく)……。


「honeyのマネージャーさん……?」


「はい。沢口です。凛斗から堂本さんの事は聞いています。差し入れを持って来てくれるから対応してくれと」


「そ、そうなんですか」


私は沢口さんに箱を差し出した。


「こ、これを……」


「ありがとうございます。凛斗に渡しておきますね」


全然笑わずに頭を下げる沢口さん。


私はびくびくしながら口を開いた。


「あ、あの……」


「はい?」


「凛斗さ…くんに、別に作ったものがあって……」


箱とは別に渡した小さな袋。


「これは?」


「チョコチップクッキーです……。その、ちょっとお腹空いたときに食べてもらえればと思って……」


「二つもですか?」


「あ、あの、一つは沢口さんに……」


「私に?」


「凛斗くんをいつも支えてくださっているお礼……みたいなものです。要らなければ捨ててください」


そう言うと沢口さんが少し笑った。


「そうですか、ありがとうございます。甘いもの、好きなんです。とても嬉しいです」


「よ、良かった……!」


「そうだ。堂本さんはパティシエさんなんですよね」


「は、はい」


「是非今度、ケーキを買いに行かせてください。いつも凛斗からは『来なくていい』と言われていて、買えた事がないんです」


「も、もちろんです!」


「私の連絡先はその名刺にあります。堂本さんの連絡先を教えてもらってもよろしいですか?個人的に凛斗の事も聞きたいですし」


「凛斗くんの?」


「はい。こちらも凛斗の仕事姿、堂本さんに教えますから」


それはとても魅力的だ。


私は沢口さんに頭を下げた。


沢口さんと連絡先を交換して仕事に戻る。


正人さんからもお願いされていたガトーショコラを作って、今日も私はケーキと向き合っていた。

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