砂糖よりも甘い君
昔の事なんてもう思い出したくない。


そう思って私は頭を振った。


するとチャイムが鳴った。


玄関に向かって扉を開けると、そこには凛斗様が立っていた。


「いつも言ってる事だけど」


「え?」


「相手が誰か確認する前に開けるのやめろって。危ないだろ」


ため息をつきながら私をあきれ顔で見る凛斗様。


私は体を小さくした。


「それで?その格好で行くわけ?」


「う……っ。これしかマシなものが無くて……」


「本当にお前って、自分の事に興味ねーな」


凛斗様は呆れたようにそう言うと私の手を掴んだ。


「俺の貴重な休みなんだ。無駄にする前に早く行くぞ」


「は、はい!」


出かける準備をして凛斗様と一緒にマンションを出る。


大人気アイドルが平然と歩いているなんて誰も思っていないのか、全然私達を見る素振りは無かった。


「不思議ですね」


「何が?」


「だって、凛斗様は大人気アイドルで、テレビで見ない日はないくらいの存在なのに、誰も凛斗様だって気づかないなんて」


「そりゃそうだろ。誰も他人なんて興味ねぇよ。人の事ジロジロみるような奴はただの変な奴」


「変な……」


「堂々としてれば誰も俺だって分からない。そうじゃないと芸能人なんて自由ないだろ」


それもそうだ。


芸能人だって一人の人間。


プライベートな時間が欲しいに決まってる。


それを奪ってしまわないように私も気を付けないといけないんだ。


凛斗様に連れられてやって来たお店で服を選んでくれる。


どれも私が着た事のないような可愛い服だ。


流行なんて知らないけど、よく街でこんな格好で歩いてる女の子を見たことある。


「紅華」


突然名前を呼ばれて首を傾げる。


「はい」


「これ、着て」


凛斗様に渡された服のセットを手にして試着室に押し込められる。


問答無用でこれを着ろと……?


着ないと絶対に凛斗様は怒るだろう。


私は覚悟を決めて着替える事にした。


こんな可愛い服、今まで着た事ない……っ。


試着室の鏡で自分を見れば全然似合ってない自分がいた。


恥ずかしい!!

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