みだらな天使
「今朝…いってきますのキス、私に風邪を移さないようにって、ここにしたでしょ?」
自分の頰を指しながらそう言うと、朔がマスクを外そうとした手を止めた。
「私の体を気遣ってそうしてくれたのはわかるけど…でもね、こんなこと言うの、恥ずかしいけど、少しだけ…寂しかった。」
毎朝、何気なくしているキスだけど…
唇から伝わる思いがあるんだと思った。
それが、今日は唇にキスしてくれなくて、少しだけ距離が開いてしまったような、そんな寂しさがあった。
こんな日に不謹慎だけど、不謹慎極まりないけど。
そう思わずにはいられなかった。
「ね、ただいまのチュー…まだだよね…?」
意を決してそう呟くと、朔がマスクの下でフッと笑った。
「…俺は何よりも、奏のことが大事なんだ。大事な奏に、風邪なんて移せないよ。」
嘘つき。
毎日、行ってきますのキスとただいまのキスをしようって言ったのは、朔なのに。
…そんな言葉を飲み込み、寂しさを隠すようにたまご粥を一口レンゲに乗せようとすると…
「…今日はこれで我慢して」
その言葉とともに、朔がマスク越しに、キスをくれた。