幸せの種
あんなに盛り上がっていた部屋が、一気に静かになった。
どんなリアクションをすればいいのか、わからなかったんだと思う。
だから私は、そのまま話し続けることにした。
「私達は家族と暮らせなかったから。特に彼は、地元に誰も肉親がいなかった。親にも見捨てられてすごく悲しかったし、生まれてきてごめんなさいってずっと思ってた。でも、生きていてもいいんだよ、この世に生まれてきてくれてありがとうって、学園の先生が言ってくれたの」
まだ、しいんとしている空気が重たくて、普段は空気になりたい私もこれはまずいと思った。
「あ、今はすごい幸せだから気にしないで。学園の中も平和だし、こうやって話を聞いてくれる友達もいるし、それに彼とうまくいってるし」
思い切って、人生初ののろけをやってのけた。
「小森さんって、めっちゃいい子じゃない?」
「うん。あんまり話したことなかったし、綺麗だから近寄りがたかったけど、何か可愛いね」
「これは彼氏もほっとけないわ~。ところで、彼氏ってどこの大学?」
「自治医大」
するとまた、部屋の空気が一変した。
「ぎゃー、医大生だって!」
「将来医者の奥さん?」
「いい子だけど、可愛いけど……このリア充めっ!」
……そして、見回りに来た先生に私達はこってり叱られた。