幸せの種
母親の愛を求め、裏切られ、孤独を癒してくれる男と付き合い、祝福されない出産を経て、貧困状態のまま母になる……。
『負の連鎖』が断ち切れない理由のひとつが、愛情の不足だ。
このままの環境では、千花も同じような運命を辿り、孤独なままさらに孤独な子どもを産むかも知れない。
そういう事例を嫌というほど見てきた陽平は、心の内の悲しみを見せないように口角を上げた。
「お母さんは面会室で座って、園長が来るのをお待ちください。ちーちゃんはお部屋へ荷物を取りに行こうね」
「はーい。ママ、まっててね」
「そうそう、穂香先生がちーちゃんに渡したいものがあるって言ってたから、最後に職員室へ寄っていこう」
「うんっ!」
千花の部屋の前に置いてあった荷物を持ちあげ、陽平はその中にひとつの小さな紙袋を入れた。
「前に、ちーちゃんがいいこにしていたらって約束していたものを入れておいたよ」
「ホント!! なに?」
「招き猫の形をした鉛筆削り。幸せを呼んでくれる上に、ぴんぴんにとがった鉛筆にしてくれるんだよ」
「わー! ありがとう!」
「それと、ここの電話番号とテレホンカード。辛くて、誰かに話してすっきりしたくなったら、高橋先生はいつだって話を聞くよ」