幸せの種
こんなに平和なのは、学園に来て以来、初めてだった。
いや、家にいた時も、わたしは色々なことに対してびくびくしながら生活していた。
だから、この生活が長く続くことを願っていた。
家に帰ることが叶わないのであれば、学園で穏やかに暮らしたい。
琉君がいるおかげで、今は平和に暮らしているけれど、それもあと少し。
琉君が高校生になってしまったら、また一緒に登校できなくなる。
ただ、ミーナちゃんも中学校を卒業するので、また環境は変わるかも知れない。
環境が変化することに対して、私はとても怖いと思う。
それまでいた場所の『空気』にせっかくなれたのに、また違う場所の『空気』になるまでには時間がかかるから。
だから、できるだけ新しいことにチャレンジするのは避けてきた。
それなのに、わたしは心の底からこの新しいチャレンジに憧れ、行ってみたいと思った。
――夏休み中、穂香先生の家へ『帰省』することを。しかも琉君も一緒に。