枯れる事を知らない夢
第2章 変わりはじめ
次の日私のクラスは転校生の話題で盛り上がっていた。もしかして昨日の男の子かな?だとしても私には関係ない。だって私は学校の空気なんだから。小山先生も私なんて眼中になくなってしまったんだから。もうなに一つ気にすることなんてないんだ。私はロッカーに入っているプリントを取りにロッカーを開けると紙切れが入っていた。

"放課後校舎裏にこい"

呼び出しだ。今日は一体なにをされるのだろうか。少しあの時の恐怖で足が震える。チャイムが鳴り席に着くと担任の先生が入って来て"転校生だ"と言うとクラス中が騒ぎ出して先生が静かにさせるもうるさい。"入ってこい"と言う合図で教室のドアが開く…昨日の男の子だ。

彼はダルそうに教壇に登り先生に紹介される。
そーいえば昨日もダルそうに空き教室に入ってきたな。面倒くさがりやなのかな。

「明記樟南(めいきしょうなん)高等学院から来ました。朝霧 翔真です」

「明記ってバリで頭いい所じゃん」

「超エリート高じゃん」

「しかも超イケメン」

「小山先生て張り合えるよ」

なんなんだろう。なんでこんな超絶頭いい人がこんな平凡な学校に転校してきたのだろうか。明記高校なんて隣町だから電車やバスで行けない距離じゃないはずなのに。そんなことを思っていると彼と目が合った。彼は口角を軽く上げて私の方に足を運ぶ。急な彼の行動に教室中が静まり返りみんなの視線を集める。

「昨日ぶりだね美華ちゃん」

「…」

「あれ?昨日の今日で忘れちゃった?」

「…」

「もしもーし!聞こえてますかー?」

「…」

「あれ(笑)」

「朝霧…お前誰に話かけてんだ」

「え?誰って…美華ちゃんに…」

「そんな奴うちのクラスにいっけ?」

「いないいない(笑)」

「…なるほどね。」

彼は周りの会話に察したのか納得した顔をしていた。もうこれで彼もみんなの仲間入りだ。私は顔を伏せて彼が私の前からいなくなるのを待っていると。

「先生俺ここの席ね」

彼はわざわざ私の隣の席を指示して無理に席を譲って貰って私の隣に座っていた。彼は席に座ると頬杖をついて私をガン見していた。周りのみんながコソコソと騒いでいた。そりゃ私なんかにこんな頭良くてイケメンな人が構ってくるんだから騒いで当然だ。先生は特に気にすることなくホームルームを終わらせて教室を出ていった。隣からずっと強い視線を感じる。

彼の周りには女子が囲んでいた。目をハートにしながら彼に質問していた。これ小山先生と同じだよね。てか、1時間目から科学じゃん。私は教科書とワークとノートを机に準備して待つ。
チャイムが鳴りみんなが席につき小山先生が入ってくると一段と女子の叫びが響く。

「イケメン二人の空間で勉強とか最高」

「私どっちか何て選べなーい」

「目の保留ね」

女子ってなんでイケメンが好きなんだろうか。私は隣をチラっと見るとダルそうに机に座る彼といつもと変わらずの爽やかな笑で出席を取る小山先生が教壇にいる。

「えー…と朝霧 翔真くん?今日からか」

「うぃーす」

「よろしくな」

「へーい」

か、軽いな彼は。小山先生を見ると小山先生は私を見つめるとすぐに視線を逸らして授業を進めていた。私は少し不思議に思いながらも気にすることなく変わらない1日を過ごしていた。
お昼になりお弁当を持ち空き教室に向かう。

「美華ちゃん…」

「…」

「この間のことなんだけど」

「…なんですか」

「やっぱり俺は君をほっとけない」

「…っ」

「南斗があれだけ心から可愛がっていた子を見捨てるなんて俺は自分が許せない」

この人はずるい。なんでお兄ちゃんの名前を出すかな。私がお兄ちゃんのワードに弱いってわかってての言葉なのかな?それなら小山先生はずるいですね。お兄ちゃんに似てて真っ直ぐに歪みのない瞳で私を見つめていた。あなたは一体何にそんな執着するんですか?私は決してあなたに助けて欲しいなんて思わない。

お兄ちゃんの大事な友達なんだろうけどもただそれだけの人で赤の他人だ。私はあなたを頼ることなんて決してしない。どれだけ小山先生が私を構おうと…所詮私は学校中の空気だ。
私の闇を解かせる人なんているはずがない。

「美華ちゃんを守るって約束する」

「…」

「教師のくせに生徒に告白すか?」

「朝霧…」

「悪いけど美華ちゃんは俺が貰うんすよ」

「!?!?」

「…っ!?」

彼は一体何を言い出すのだろうか。私を貰う?どーゆ事か理解が全く出来ない。この二人は一体何がしたいのだろうか。私なんかを庇って何になると言うのだろうか。理解不能だ。
私は二人をすり抜けて空き教室に入ってお弁当を食べはじめる。二人はそんな私の後を追って教室に入って来た。元々は私だけが専用していたこの空き教室に何故この二人が…。

「なんで小山っちがいるんすか」

「それはこっちの台詞だ。小山先生と呼べ」

「いいじゃないすか小山っち」

「お前な」

「…ふっ」

「「…笑った」」

「…」

「美華ちゃん…笑えるじゃん!」

「お前こいつをなんだと思ってんだよ」

「え、宝の持ち腐れ」

「…」

なんだよ。笑っちゃいけないんですか。一応私だって人間なんだから笑えるよ。しかもなに宝の持ち腐れって…私のこと馬鹿にしてんのこの二人は。私だってちゃんと感情くらいある。ただ昔ならもっと笑っていたと思う。

私は本当にお兄ちゃんが大好きでいつもお兄ちゃんにベッタリでそんな私をお兄ちゃんはいつも可愛がってくれてた。わがままもいつも聞いてくれてた。小学生頃公園で遊びたいって言ったら喜んで一緒に遊んでくれてた。そんなお兄ちゃんが本当に大好きだった。私はいつもポケットに入れているお兄ちゃんとの写真を見つめる。私が中学校の入学式の時にお兄ちゃんと一緒に撮ったやつだ。この時お兄ちゃんはもう高校卒業して社会人だった。

「…お前ら本当に仲良かったよな」

「…っ」

「誰そのイケメン」

「…」

「お前は知らなくていい」

「んだよ、つまんねーの」

それからずっと私は二人の言い合いを目の前で見つめていた。この二人ってお似合いだよな。息がぴったりって言うか気が合うんだろうな。なんだろう。この二人といると少し安心するかもって思っているのは二人には内緒。

放課後になりみんなが帰る中私は校舎裏に向かった。お昼休み少し浮かれてて忘れてた。そこには怖い顔をした同級生、下級生や上級生が集団でいた。集団リンチってやつですか。先輩が私の胸ぐらを掴み壁に突き飛ばす。私は背中を思いっきり強打して痛みに耐える。

「空気が出しゃばってんじゃねーぞ」

「小山先生に構って貰えてるからってあんたは所詮この学校中のゴミなんだよ」

「あんたあの転校生の朝霧くんにも懐かれてるらしいけどなんなの?体でも売った?」

「こんな奴の体じゃ汚くて勃たねーだろ」

「それ言えてる(笑)」

凄い言われようだな…。ま、覚悟はしてたけどさ空気だって思うならほっといて欲しいんだけど。先生が私の腹に蹴りを入れる。とてつもない激痛にお腹を抱えるとみんなが笑って見ていた。みんなが輪になり私を殴るなり蹴るなりを繰り返す。私は地面に寝そべる。すると…

「なにこれ?」

「写真じゃん」

「うわ!この人バリイケメンじゃん」

「レベル高くね?」

「この女だれ?」

「彼女じゃない?」

「なんでこんやつが持ってんの?」

私はポケットに入っていたお兄ちゃんとの写真を落として拾われてしまい。必死に力を振り絞り女子の足にへばりついて写真を取り返そうとするも"気色悪い"と蹴られて倒れる。やばい。もう体力の限界だ。視界がボヤける。気が付くと私は意識を手放していて目が覚めると周りは真っ暗だった。起き上がろうとするも激痛によって顔が歪むも我慢して教室に鞄を取りに行き激痛に耐えながら学校を出た時…

「「美華ちゃん!!」」

「…っ。」

「なにしてんだよ!?」

「探したんだぞ!!」

「…」

「何があった?」

小山先生と朝霧くんが私をずっと探していたらしく額に汗をかいていた。なんで私なんかのためにそんなマジになって心配してくれるの?なんでそんな怖い顔をしてるの?

「帰るぞ」

「…っい」

「「!?」」

私はずっと耐えていた激痛に腕を引っ張られて再度襲われる。二人は気づいたらしく小山先生が私の先生の袖を捲る。それを見て二人は目を見開くと怖い顔をして私の制服を捲りあげ始める。さすがに恥ずかしくなり抵抗するも痛みと男力に勝てる訳がなく背中とお腹も見られる。暗い中でもわかる程の痣だらけだった。太ももにもドス黒い痣が大きくあり二人は怒りに震えていた。

「…誰にやられた」

「答えろ」

「…っ」

二人は低い声で怒りを抑えながら私に問いかけていた。私は恐怖でなにも言えなかった。気付いたら私の目から涙が溢れていた。それを見て二人は驚きが隠せていなかった。私は膝をつき泣き崩れると二人が支えてくれる。

「…お兄ちゃんとの写真が盗まれたの」

「…誰にだよ」

「わかんない…多分先輩」

「この傷もか?」

「…っ。クラスの人と後輩もいた」

「リンチかよ…っ」

「小山っちどうすんの?」

「…とりあえずお母さんが心配してるから一旦帰ろう…。」

私は二人に支えられながら家に帰るとお母さんが凄く心配そうに私を見ると抱き締めてくれた。少し涙目になりながら。こんなにみんなに迷惑かけて心配かけてしまっていたなんて。リビングからは静香さんも心配そうに出て来て私に駆け寄ってくれた。

あ…私ってちゃんと見てくれる人がいるんだ。
それだけで少し安心したんだ。小山先生が朝霧くんは汗だくになるまで探し回ってくれて泣かすまでお母さんに心配かけさせた。私ってどうしてこうも迷惑かけてしまうんだろう。特にお母さんと静香さんには何度目だろ。

リビングで静香さんが私の身体中の傷の手当をしてくれた。静香さんは傷を見ながら今にも泣き出しそうに手当をしていた。明日きっと腫れるだろうから明日は大事を取って学校を休んで病院に行くことになった。

私がいつも帰ってくる時間に帰って来ないから静香さんの所にいると思って連絡したけどいなくて静香さんが小山先生に連絡したけれども小山先生は学校の中を探すも居なくて教室に鞄がある事に気付き反対側の校舎を探そうとした時に忘れ物を取りに来ていた朝霧くんに会って一緒に探していたらしい。本当に申し訳ない…。

「美華ちゃん何で雅くんに助けを求めなかったの?朝霧くんだっていたんでしょ?」

「…っ」

「美華ちゃんまで死んじゃったりしたら私…」

「静香…やめとけ」

「でも…っ!」

「死ねたらどれだけ楽なんだろう…」

パシンっ…

「…っい!?」

「「「!?!?」」」

「ふざけた事を言うんじゃない!!みんな美華をどれだけ心配してると思ってるの!美華が大事だからみんな心配するのよ!!死ぬなんて冗談でも口にするんじゃありません!」

「…っ…」
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