枯れる事を知らない夢
初めて…お母さんに叩かれた。初めて…お母さんが私に本気で怒った。泣きながら…。静香さん達もあのお母さんがとびっくりして唖然としていた。私は放心状態だった。ビンタをされたことにただただヒリヒリする頬の痛みを感じるだけだった…。

確かに、お兄ちゃんが亡くなってから何度も死にたいって思って来たけれども一度もそれを口にはした事はなかった。少し冗談で言ったけれどもお母さんがこんなに怒るとは思いもしなかった。

「ごめんなさい…」

謝るとみんなが優しい顔で微笑みかけてくれて少し安心した。こんなに優しい人達がいて心配してくれる人がいるんだから私は大丈夫な気がしてきた。

それから小山先生が朝霧くんを送り届けて静香さんも車で帰っていった。私はベッドで横になりある事をずっと考えていた。もし、いまお兄ちゃんが変わらず生きていて今もお兄ちゃんが可愛がってくれていたのならば私はこんな私じゃなかったのかもしれない。

もっと明るくて笑顔が絶えない女の子だったかもしれない。それにお兄ちゃんと静香さんは結婚してて家庭があったかもしれない。姪っ子甥っ子さえ居たかもしれないんだ。誰にも迷惑かけることない生活してて学校だって友達がたくさんいたかもしれない。

"美華は素直で可愛いな"

そんなお兄ちゃんの言葉も裏腹に私は素直に言えるような子ではなくなってしまった。周りが傷つくくらいなら自分が傷つけばいいって。
ねぇ…お兄ちゃん何で私を置いていなくなるの…

次の日やはり身体中が腫れていて歩くのに抵抗があった。腕を動かすだけで身体中に刺激がいき激痛に襲われる。お母さんはそんな私を抱えて病院に連れていってくれた。診察してもらいあちこちを押されて激痛が走る。レントゲンも取られて1時間半経って結果が出た。

「右肩と腰にヒビが入っていますね。不全骨折というものです。」

「…ヒビですか。」

「ま、安静にそこを刺激さえしなければ自然完治しますので大丈夫ですよ。出来れば1週間置きに診察に来ていただければ。後は強い強打による打撲で腫れていてるだけなんで安静に」

「わかりました」

「痛み止めと湿布をお出しします」

「ありがとうございます」

私はお母さんと診察室を出て薬を貰いに行き家に帰る。"お腹空いたでしょ"と言いお母さんがお昼ご飯を作ってくれてる。私はリビングにあるお兄ちゃんと私のアルバムを手に取り見る。ずっとこれを見るのを避けてきてたな。
きっとこれを見てしまえば昔の記憶が全てフラッシュバックして来て泣いてしまうかもしれない恐怖に駆られていた。

昨日先輩方に私とお兄ちゃんの写真を取られてしまったからアルバムから一枚お兄ちゃんの写真を取ろうかな。

アルバムを見ていると私の記憶にはない赤ちゃんの頃の自分やお兄ちゃんが私を抱っこして笑顔で写ってる写真などが沢山あり私は笑を浮かべて見ていた。

「美華と南斗は本当に仲良かったはよね」

「…」

「お母さんとお父さんも嬉しかったのよ。こんなに仲がいい兄妹はうちの家族くらだって」

「…そうなんだ」

「南斗も自分何かよりも美華だったから」

「…お兄ちゃん」

「…お兄ちゃんが亡くなる前日に美華にこんなことを言ってたのよ?」

「…」

「俺がもし居なくなって美華がずっと泣いていたら俺の変わりに美華を笑顔にしてくれる人を俺は空から必死に探すよ。俺じゃもう美華を笑顔には出来ないけど美華の笑顔を見る事は出来るから。美華には絶対幸せになってもらう」

「…っ…」

「お兄ちゃんは本当に美華が大好きなのね」

「…っ…ぅ…」

お兄ちゃんがそんなことを言っていたなんてはじめて知った。私の目から涙が溢れていた。拭いても拭いても涙が流れ落ちてお母さんは私の肩を優しく抱き頭を撫でてくれていた。その優しさが尚更胸を締め付ける。

夕方になり外が暗くなるを部屋のベランダから眺めていると家の前を見覚えのある二人が通りかかる。二人は私に気付いて手を振る。小山先生と朝霧くんだ。

「美華ちゃん元気かー!?」

「お前近所迷惑だ」

私は小走りで玄関に向かいドアを開けて二人を家に招き入れるとリビングからお母さんが来て二人をリビングに招き入れていた。丁度夕食時だから二人にも食べて行ってもらうらしく私の部屋に二人を入れる。

「身体どうだった?」

「…右肩と腰にヒビが入ってた。あとは打撲」

「マジかよ…」

「動いて平気なのか?」

「今は薬が効いてるから」

「学校は?」

「少し休む」

「…そうか」

「マジかよ…美華ちゃん居ないとつまんねー」

「ずっと授業中寝てる奴がよく言うよ」

「いや、美華ちゃんが入ればちゃんと起きて美華ちゃん見てるんだけどな」

「授業を受けろアホ」

二人は相変わらずの仲良しらしくお似合いだ。私はそんな二人を見て笑を浮かべる。二人は私を見て微笑んでくれる。私は暗くなった空を見る。

「美華ちゃん…小山っちから聞いたよ」

「そっか」

「美華ちゃん…」

「昔…お兄ちゃんが私を公園に連れて一緒に遊んでくれたの。私が鉄棒してたら鉄棒から落ちちゃって頭を打っちゃって大泣きしてたんだ。お兄ちゃんはそれ凄く心配して焦って私を抱えて家に猛ダッシュで帰ってお母さんに凄い行き良いで告げたらしくて、でもその頃には私も泣き止んでてお母さんと私は笑っててお兄ちゃんは半泣きになりながら私を抱き締めてくれたの」


「…」

「そっか…」

「昔は自分にどんな事があってもお兄ちゃんが側にいつもいたから笑ってられたけど…いまはお兄ちゃんがいないだけで全てが崩れた。」

「「…」」

「心から私を心配して体張って守ってくれたお兄ちゃんはもういないってちゃんとわかってるんだ。高校入っていまの状態に慣れてしまったから。」

「「…美華ちゃん」」

「ありがとうございます。私を心配してくれて。嬉しかったです。」

それからお母さんに"ご飯"と呼ばれて三人でリビングに行くとお父さんが帰って来てたらしく五人でご飯を美味しく食べた。朝霧くんがあの明記高校からの転校生ってお母さんとお父さんが知ると口を開けて驚いていた。確かにあの学校は普通に勉強が出来る人が入れるようなレベルじゃないよな…。

朝霧くんは"わざわざ隣町まで通うのがダルい"なんて言ってたけど本当にそうなのだろうか?私にはそん気が一切しない。だって朝霧くん目が苦しそうだったもん。小山先生もそれに気付いているのか朝霧くんの耳を引っ張ってからかっていた。"いてぇーよ"なんて言いながら二人楽しそうにじゃれていた。"犬と猫ね"なんてお母さんが言っていた。確かに特別仲良くもなく別に悪くもない感じ犬と猫なのかもしれない。

20時を回った頃に小山先生と朝霧くんが帰って言って私は部屋のベランダで星空を見上げて呟いていた。

「お兄ちゃん…私変われるかな?」

そう呟いた時"大丈夫"そんな声が聞こえた気がして心が暖かくなる。側にいまお兄ちゃんがいるかのように暖かい。お兄ちゃん?私を空からずっと見守っててね?
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