枯れる事を知らない夢
第3章 交わした約束
siten 小山 雅

俺には小学生の頃からのダチがいた。友達、親友そんな安っぽい言葉じゃ勿体無いダチだ。そいつの名前は半地 南斗だ。俺と同い年で小学生の頃からずっと絡んでいた。俺と南斗にずっとくっついて来る女がいた。それが中山 静香。こいつも小学生の頃からの仲良しだ。

俺が南斗を遊びに誘っても"妹と遊ぶ"って言ってほとんど断られる。妹と遊ぶってお前何歳だよ。高2にもなって妹と遊ぶってブラコンかよ。ま、よく妹の話を聞かされるから別に対して抵抗はなかったけどな。そんなに大事にしたくなるような妹なのか?俺は一人っ子だから妹とか持つ気持ちがわかんねーけどよ。

少しは俺を構えよな…なんて思いながらも学校からの帰り道歩いていると公園で黒髪が綺麗な子供が遊んでいた。その子は走って笑顔で男に抱き着く。そこにいたのは南斗だった。南斗はその子に満面な優しい笑を浮かべて抱き締めて返していた。…あれが妹?結構年が離れているのか女の子は凄く幼かった。小学生くらいかな?俺はそのまま公園を素通りにして家に帰る。

なんか…わからんくもないかもしれない。あんなに可愛らしい妹がいたら可愛がるのもブラコンになるのもわからなくはない。南斗が妹を優先するくらいだから愛らしいんだろうな。
無性に俺も妹が欲しくなったわ。あんな妹なら俺も毎日遊んでやってもいいなって思う。

次の日南斗に妹の年を聞くと11歳のの小学5年らしく俺らと6つも離れているらしい。小5であの容姿じゃ中学生くらいになると尚更南斗のやつほっとけないんだろうな…。

それから俺らは高3になり受験勉強や就職活動に取り掛かり忙しく毎日を過ごしていた。俺は昔から学校の教師になるのが夢でいい大学入る為に必死に勉強をしていた。

「南斗も進学か?」

「いや、俺は就職」

「お前頭いいのに勿体ねーな」

「大学勉強なんてしてたら妹構えないだろ」

「また、妹かよ」

「可愛いからな」

こいつ静香と付き合い始めたのにも関わず静香よりも自分よりも妹取るってどーゆ神経してんだよ。大丈夫か?なに?妹に弱みでも握られてんのか?だとしたらそんな嬉しそうに妹の話をしたりするはずがないし妹だってあんなに嬉しそうに南斗に抱きついたりしないよな…。

そんなある日テスト勉強の為南斗の家で静香と俺は勉強会を開く事になり南斗の家に上がり南斗の部屋で勉強をしていると部屋のドアがノックされて南斗のお母さんかと思ったら可愛いらしい女の子が顔を出していた。妹だ…。

「お、美華来たのか」

「お兄ちゃん何してるの?」

「お勉強だよ?美華もいつかするんだぞ?」

「へぇー」

美華ちゃんって言うのか…美華ちゃんは南斗の膝に座り俺らの勉強してる姿を眺めていた。ふと美華ちゃんを見ると俺をじーっと見ていた。それにしても随分クリクリした目だな。俺も美華ちゃんを見つめていると南斗が美華ちゃんの顔を手で覆う。

「美華はやらんぞ」

「は!?」

「なに雅くんってロリコン?」

「ば、馬鹿いってんじゃねーよ!?」

「焦んな。冗談だ」

「っ…」

くそ。マジで焦ったじゃねーかよ。南斗のやつ俺をからかいやがってよ。静香も小馬鹿にした笑いしやがってよ。美華ちゃんを見るとまだ俺を見ていてニコッと微笑みかけてきてさすがにドキッとしたわ。なに俺は小学生にときめかされてんだよ。調子が狂う。勉強に集中が出来ない。無理矢理勉強に集中を当てテスト勉強をする。気付いたら外は暗くなり始めていて美華ちゃんは南斗の膝の上で眠っていた。こいつ休みはいつもこんな癒しがあんのか?南斗は自分のベッドに美華ちゃんを寝かせて頬にキスをしていた。なんか…兄妹の線超えてる気がするが…。

外も暗くなって来たから俺と静香は帰ることにした。なんかいっそう妹欲しくなってきたわ。
なんで南斗の妹はあんなに可愛いんだよ。

「なんだよ」

「美華ちゃん欲しいとか考えてたでしょ」

「は?!」

「わかりやす~い!」

「冗談じゃねーよ」

「ま、美華ちゃん可愛いもんね」

「…そうだな」

きっとあの子が中学生、高校生へと成長して会った時には俺はきっと本気で美華ちゃんを欲しがるのかもしれない。美華ちゃんの美しさにきっと惹かれるに違いない。だからもうこれ以上彼女に会うことはないだろう。と俺は心に秘めて家に帰った。

1年が経つのは早いもんで俺は希望の大学に入ることが出来て南斗と静香は就職した。別々になってしまったけれどもたまに飯いったり連絡はしていた。でも、ここ最近南斗が体調が優れないらしい。静香もその心配の連絡を俺にくれるが本人は環境の変化だとか言って病院には行かないらしい。俺も限界が来たら病院に行く事を進めた。

それから半年が経った頃静香から連絡が来た。
今すぐ〇〇病院に来て欲しいと言われ俺は南斗になんかあったと確信して車を走らせた。病院に着いて南斗のいる病室に行くと南斗は機械に繋がられていた。そこには南斗の両親もいて美華ちゃんもいた。

「悪いな雅…俺相当悪かったらしくて」

「なに笑ってんだよ」

「…ガンだって」

「…っ…」

「悪いみんな雅と二人にさせて」

南斗は深刻そうな顔してみんなにそう告げて病室から出し俺に話し出した。いつも笑っている南斗からは想像出来ない程の辛い顔をしていた。南斗はゆっくり俺に語り出した。

「…一昨日から高熱出してて今朝倒れてよ。病院に運ばれて…ガンが見つかった。」

「…」

「さっきまで美華が大泣きしてて辛かったよ」

「…そうか」

「自分の事であんな泣かしてしまうなんてな…しかも俺には静香もいるのにな。」

「…っ」

南斗は高校を卒業してから静香と婚約を交わしていていずれは結婚する仲だ。美華ちゃんだってまだ中学1年生でこれから楽しい人生が待っている中で大好きな兄がガンなんて知ってきっと死ぬほど辛いに決まってる。南斗…お前が一番辛いはずなのに他人を心配するなんてやっぱりお前は良い奴だな。

「…1年…持っていいからしい」

「…嘘だろ…」

「まだ初期段階だから見込みはあるらしいけどらしいんだよ」

「…ヤブ医者が」

「しょうがないさ。ずっとほっといた俺の責任でもあんだよ」

「でもよ」

「雅…頼み事聞いてくんね?」

「…っ」

「俺がもし…」

なんで南斗が俺にそんな頼み事をしてきたのかはわからない。それをわかるのはきっとまだ先の話なんだと思う。いまの俺には理解が出来ないまま南斗との約束をした。南斗は弱い笑で俺に"ありがとう"って言っていた。

それから1年半経った頃…あいつはこの世を去った。最後まで綺麗なあいつのまま息を引き取った。南斗の両親、静香、美華ちゃんは大泣きしながら南斗を泣き叫んでいた。俺もその後で密かに涙を流す。最愛のダチを亡くしたんだ。辛く悲しいに決まってる。1年経っても元気だった南斗はワンチャン治るとか笑っていたけどお前はわかってたのかもしれないな…こうなる事を。

南斗…お前はどこまで強い人間なんだよ。
美華ちゃんが泣いてんぞ。お前を思って。細くて小さい体で必死に泣き叫んでんぞ。綺麗な顔に涙をぐちゃぐちゃにしながらよ…。
なんでこんな子を置いてくんだよ…南斗よ。

あれから2年が経ち1年前に大学を卒業して教師免許を一発合格を果たしその年は塾の講師をしていたけども今年から晴れて高校の教師になることになった。元々いた教師が急にやめたらしく俺がその先生が担当していた科学を受け持つことになった。どう生徒に教えたらわかるかとか色々考えながら二学期から俺は楽しみにしていた。23という若さで教師と言う立場に校長も期待を膨らませてくれていた。

初日最初の授業は2学年のA組だった。
担任に紹介されて自己紹介をする。なんかほんとに夢に見た瞬間で誇らしく思う。授業を始めたい所だが女子どもが騒ぎ出して授業ところではなく少し質問タイムに入る。女子は本当にこーゆのが好きだよな。

落ちついたところで授業を進めるのに大事なのは忘れものがないかの確認だ。授業に必要なものがなければ進まないからな。忘れものがないか聞くと誰も手をあげなかったので一人一人机を確認すると一人の女の子の机の上にはルーズリーフしかなく俺は彼女の側に行く。ずっと下を向いていて俺を見るなりびっくりする。
なんだろう…この目見覚えがある。ボサボサの長い髪とメガネで顔が隠れていて確認が出来ない

「教科書とワークは?」

「…」

「聞こえなかったか?」

「先生そんな奴相手にするだけ無駄」

そんな男子の声が聞こえて彼女を見ると顔を伏せてずっと黙っていた。他の生徒も彼女なんかいないも同然の顔をしていた。…いじめか?
そーいえば…担任の先生に挨拶した時"うちのクラスには紛い物もいるが"なんていってたな。
特に気にすることなかったがこの子のことか?

俺は教壇に戻り生徒規模を見て彼女の名前を探す。

「半地 美華…半地?」

「…」

まさか…さすがに驚いた。あの美華ちゃんがこの学校の生徒だとは思いもしなかった。確かに美華ちゃんの家からこの学校が一番近いかもしれないがあんなに成績トップを保っていた兄がいたんだから彼女だって受け継いでるはずだ。もっと上の学校を狙えたはずなのに…。しかも…昔の綺麗な面影がなかった。見覚えのある目は美華ちゃんだったからだったのか…。
南斗が亡くなってからの影響か?

「小山先生どうしたのー?」

「いや、授業はじめようか」

俺は美華ちゃんをチラチラ気にしながら授業を進めていく。まさか初日最初の授業が南斗の妹の美華ちゃんに出会うと思いもしなかった。授業が終わりどっと疲れが出る。予想外過ぎて疲れた。とりあえず授業は無事終わったから良しとしよう。それにしても本当随分変わったな。昔はあんなに愛らしかったのに。やっぱり南斗が原因なのかもしれないな。

"今日も半地は薄気味悪いですね"

職員室でそんな声が聞こえてきた。クラスの奴らもそんな感じだったけどもしかして教員の中でも美華ちゃんをあんな扱いしてんのか?だとしたら人間としてどうかと思うけどな。

昔…中学の頃に南斗にある事を言われた。
小学生の頃から教師になる事が夢なのを告げるとみんな馬鹿にしてたけど南斗だけは違った。

"今の時代の教師は俺ら生徒を小馬鹿にしてる。この世の中で生徒が教師に心から尊敬出来るやつがどれだけいる?生徒に尊敬されないなんて教師としても人間…大人としても可哀想だよな。でも、お前ならそれを覆せる教師になれるよ"

昔から南斗は考えることも大人だった。だから俺はそんな教師になりたくて必死に頑張った。けど。ここの学校に来てやはりそーゆ大人が多いことは今も昔も変わらないんだな。きっと美華ちゃんもそんな大人達に絶望しているに違いないはずだ。
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